建設業は税務調査が入りやすい!注意点や対策のポイントなどを解説

建設業を営む経営者や担当者の方々にとって、税務調査は大きな不安要素の一つではないでしょうか。実は建設業界は、その業務特性から、他業種と比較して税務調査の対象になりやすく、また指摘を受けるリスクも高い業種として知られています。工事の進捗管理や多岐にわたる経費処理、下請けや一人親方との関係など、複雑な会計処理が必要とされるため、意図せず税務上の誤りが生じやすい環境にあります。本記事では、建設業が税務調査の対象となりやすい理由から、実際の調査で確認されるポイント、そして事前に取るべき対策までを詳しく解説します。

1. 建設業が税務調査の対象となりやすい理由

建設業は、税務当局に「調査すべき業種」として注視されていると考えられます。その背景には、業界特有の会計処理の複雑さや取引構造があります。

1-1. 不正所得が多く摘発されている業種だから

国税庁の調査事績によると、建設業は不正発見割合や申告漏れ額が特に高い業種として認識されています。令和5事務年度のデータでは、一般土木建築工事業・職別土木建築工事業の不正発見割合は29.5%に達し、1件当たりの不正所得金額もそれぞれ約2,100万円・約1,700万円という高水準を記録しています。

同様に、土木工事業においても不正発見割合は31.5%、1件あたりの不正所得金額は1,600万円台となっており、これは他業種と比較しても非常に高い数値です。

このような統計から、税務当局は建設業を「不正が見つかりやすい業種」として認識し、調査対象として優先順位を高くしていると推測できます。過去の実績から、一度の調査で大きな追徴税額に繋がる可能性が高いと判断されているのです。

1-2. 会計処理が複雑で誤りが起こりやすいから

建設業は、他の業種と比較して会計処理が複雑な業種です。工事の契約から完成・引渡しまでが長期間にわたることが多く、決算期をまたぐケースも珍しくありません。その結果、売上や原価の計上時期に関する判断が非常に難しくなります。

特に、工事進行基準と完成基準という2つの収益認識方法が存在することで、経理処理が複雑になっており、意図的でない誤りや、時には恣意的な会計操作を生み出す要因となっています。

  • 工事進行基準:工事の進捗に応じて売上と原価を計上する方法
  • 完成基準:工事が完了し、引き渡した時点で売上と原価を計上する方法

また、多くの現場を同時並行で管理し、それぞれに下請や外注が関わることで、経費の管理や仕訳も煩雑になりがちです。このような環境下では、ミスが発生しやすいため、税務当局の注目を集める要因となっています。

1-3. 帳簿不備や証憑の保管不足が多いから

建設業では、工事契約書、請求書、品質証明書など、膨大な量の書類が発生します。

特に複数の現場が並行して動く中小の建設会社では、書類の管理体制が追いつかず、書類の不備が生じやすい状況にあります。税務調査において帳簿や証憑書類に不備があると、調査官は疑念を抱き、より深く調査を行う傾向があります。

さらに、証憑書類の不備は反面調査(取引先への調査)のきっかけにもなります。取引先に対する調査が始まると、さらに多くの問題が発覚するリスクが高まるのです。

1-4. 現金取引の割合が高く追跡が困難だから

建設業界では、依然として現金取引が多く行われています。特に、日払いの労働者への賃金支払いや小口の資材購入、急な現場経費などで現金が使われます。

こうした現金取引は銀行振込などと異なり、取引の追跡が困難です。そのため、売上の除外や経費の私的流用といった不正が発生しやすいと考えられており、税務調査では、こうした現金取引の記録や管理体制が重点的にチェックされます。現金出納帳と実際の手持ち現金の金額が一致しない場合や、大量の現金取引があるにもかかわらず管理体制が不十分な場合は、より詳細な調査が行われる可能性が高まります。

2. 建設業の税務調査で重点的に確認されるポイント

建設業の税務調査ではどのようなポイントが重点的に確認されるのか、詳しく見ていきましょう。

  • 売上の計上が適正に行われているか

    • 請求書発行日と入金日の整合性は取れているか
    • 期末の売上計上漏れがないか
    • 現金売上の申告漏れがないか
  • 未成工事支出金が適切に管理されているか

    • 工事進行基準と完成基準の使い分けは適正か
    • 工事台帳の記載と会計帳簿の整合性はあるか
  • 人件費と外注費が正しく区分されているか

    • 常用雇用と一人親方の区別は明確になっているか
    • 源泉徴収義務の有無を正しく判断しているか
  • 棚卸資産の管理が適正に行われているか

    • 材料の持ち越し処理が正確に行われているか
    • 実地棚卸と帳簿残高の差異が発生していないか
  • 交際費や紹介手数料の支出処理が適正か

    • 支出に関する証憑や事業関連性が明確か
    • 一定金額を超える接待費の処理は適正か
  • 個人事業主との取引内容に問題はないか

    • 名義貸しや架空取引が行われていないか
    • 支払調書と相手方の申告内容に矛盾がないか

2-1. 売上の計上が適正に行われているか

売上計上の適正性は、税務調査で重視される点の一つです。特に建設業では工事の進行状況や完成時期によって売上計上のタイミングが変わるため、細かくチェックされます。

2-1-1. 請求書発行日と入金日の整合性は取れているか

調査官は、工事完了日、請求書発行日、入金日の関係性を細かく確認します。通常、工事が完了したら請求書を発行しその後に入金、といった流れで、工事完了から入金までの日付には一定の関連性があるはずです。しかし、以下のようなケースではこうした日付の整合性が取れない状態となってしまいます。

  • 決算対策などの理由で、実際には工事完了しているにもかかわらず、請求書の発行を意図的に遅らせる
  • 口頭での約束だけで工事を行い、請求書自体を発行していない

調査官は工事台帳などから実際の工事完了日を推定し、請求書発行日との間に不自然な期間がないかをチェックします。

2-1-2. 期末の売上計上漏れがないか

決算期末に完了している工事の売上を次期に繰り延べる「売上の繰延べ」は、指摘されやすい項目です。

調査官は、工事台帳、作業日報、引渡証明書などの書類を精査し、決算期末時点での工事の進捗状況や完了状況を確認します。これらの書類と会計処理を照合し、売上計上漏れがないかを徹底的にチェックします。

また、追加工事や変更工事の売上計上も重要なポイントです。当初契約にない追加工事が発生した場合、その請求が遅れることがありますが、本体工事自体が完了していれば適切に当期の売上として計上する必要があります。

2-1-3. 現金売上の申告漏れがないか

調査官は、現金出納帳や預金通帳の入金記録を詳細に確認し、事業に関連する入金がすべて売上として計上されているかをチェックします。

小規模な修繕工事やリフォーム工事など、個人客から現金で対価を受け取るケースでは、売上の計上漏れが発生しやすいとされています。また、建設資材の転売や中古資材の売却なども、現金取引となることが多く、帳簿への記載が漏れやすい傾向があります。

現金売上の申告漏れが発見され、さらにそれが意図的なものであると判断された場合、重加算税の対象となる可能性が高く、追徴税額が大幅に増加するリスクがあります。

2-2. 未成工事支出金が適切に管理されているか

建設業特有の会計処理として重要なのが「未成工事支出金」の管理です。これは完成していない工事に投入した原価を棚卸資産として計上し、完工引渡し時に初めて損金に落とすというもので、決算期をまたぐ工事では特に重要になります。

2-2-1. 工事進行基準と完成基準の使い分けは適正か

調査官は、契約書や工事台帳から工事の規模や期間を確認し、適用すべき基準が正しく選択されているかをチェックします。

法人税法上、以下3つの条件に該当する長期大規模工事ついては、工事進行基準を適用することが義務付けられています。

  • 請負対価額が10億円以上
  • 着手日から引渡しまでの期間が1年以上
  • 請負対価額の2分の1以上が工事目的物の引渡期日から1年以上を経過する日後に支払われるものでない

一方、それ以外の工事については、工事完成基準を選択することも可能です。

しかし、両基準の使い分けを恣意的に行い、利益の繰延べや前倒しを図るケースが見られます。例えば、本来工事進行基準を適用すべき工事に完成基準を適用することで、決算期末時点での利益計上を避けるといった操作です。

2-2-2. 工事台帳の記載と会計帳簿の整合性はあるか

未成工事支出金の適正な管理には、正確な工事台帳の記載が重要です。工事台帳には、材料費、労務費、外注費、経費などが記載されており、これらの情報と会計帳簿上の未成工事支出金残高が整合していることが求められます。

2-3. 人件費と外注費が正しく区分されているか

建設業では、正社員だけでなく、一人親方(個人事業主)の外注先を活用することも多いです。しかし、この区分が適切でないと、源泉徴収漏れや社会保険料の問題に発展する可能性があります。

2-3-1. 常用雇用と一人親方の区別は明確になっているか

建設業界では「一人親方」と呼ばれる個人事業主が多く活動していますが、調査官は以下のような観点から総合的に判断し、実質的に雇用関係にあるとした場合、外注費でなく給与として扱うべきと指摘します。

  • 請負契約書はあるか、どのような内容となっているか
  • 他の人が代替して業務を遂行することが可能か
  • 作業時間の指定があるか
  • 作業内容や方法の指示を受けるか
  • 業務が完全に遂行されなかった場合に報酬請求ができるか
  • 材料や用具の負担者は誰になっているか

この指摘を受けると、過去に遡って源泉所得税や社会保険料の追徴が発生する可能性があります。

2-3-2. 源泉徴収義務の有無を正しく判断しているか

調査官は業務の実態を確認し、源泉徴収の要否が適切に判断されているかをチェックします。

外注先の個人事業主への報酬支払いに関しては、その業務によって源泉徴収の要否が変わります。例えば、建築士への支払いなど所得税法204条に該当するものは源泉徴収の対象となりますが、純粋な工事の請負は原則として源泉徴収の対象外です。

源泉徴収漏れが発見された場合は、不納付加算税(10%)や延滞税が課される可能性があり、過去数年分に遡って追徴されることもあります。

2-4. 棚卸資産の管理が適正に行われているか

建設業では、原材料や未成工事支出金など、多様な棚卸資産を管理する必要があります。これらの管理が不適切だと、利益操作などの疑いにつながる恐れがあります。

2-4-1. 材料の持ち越し処理が正確に行われているか

調査官は、現場視察での未使用資材の有無や、翌期首に大量の資材が繰り越されていないかを確認したりすることもあります。決算期末時点で使用していない工事用資材は、棚卸資産として資産計上しなければなりません。これらの他、以下のようなポイントも合わせてチェックされます。

  • 大量の資材購入が決算期近くに集中していないか
  • 購入した資材と当期完成工事の規模が釣り合っているか

  • 高額な設備機器や特殊資材の、購入時期と工事への投入時期に整合性はあるか

2-4-2. 実地棚卸と帳簿残高の差異が発生していないか

調査官は、実地棚卸の記録と帳簿上の棚卸資産残高を照合し、不一致がないかをチェックします。また、棚卸資産の評価方法(先入先出法、総平均法など)が継続して適用されているかも確認されます。

適正な決算のためには、期末時点での実地棚卸が不可欠です。建設業では現場が多岐にわたるため、すべての現場の未使用資材を正確に把握することが難しい場合もありますが、可能な限り実態を反映した棚卸が求められます。

実地棚卸と帳簿残高に大きな差異がある場合、その原因の特定が求められ、場合によっては過去の決算書の修正が必要になることもあります。

2-5. 交際費や紹介手数料の支出処理が適正か

建設業では、営業活動や受注獲得のために交際費や紹介手数料が発生することが少なくありません。これらの支出は、その性質や金額によって税務上の取り扱いが異なるため、適正な処理が求められます。

2-5-1. 支出に関する証憑や事業関連性が明確か

調査官は、領収書や請求書の宛名、日付、金額、支出の目的などを詳細にチェックします。特に、宛名が個人名になっている領収書や、支出目的が不明瞭な領収書については、より詳しい説明を求められることがあります。

交際費や紹介手数料は、事業との関連性が明確であることが税務上の要件です。単なる個人的な支出や、事業との関連が薄い支出は、経費として認められない可能性があります。

また、高額な交際費や紹介手数料については、取引先や紹介者との関係性や、支出によって得られた成果(受注実績など)についても質問されることが多いです。

2-5-2. 一定金額を超える接待費の処理は適正か

税法上、一人当たり1万円を超える飲食費は「交際費」として扱われ、中小企業であっても年間800万円を超える部分は損金不算入となります。また、大企業(資本金の額等が100億円超)の場合は交際費の50%が損金不算入となります。

調査官は領収書の内容や支出の実態から、適切な科目で処理されているかをチェックします。

不適切な科目で処理されていた場合、正しい科目への修正が求められ、それによって損金不算入額が増加するケースもあります。

2-6. 個人事業主との取引内容に問題はないか

建設業では個人事業主との取引が多く発生しますが、これらの取引が税務上の問題を引き起こすケースも少なくありません。特に注意すべきは、架空取引や名義貸しの問題です。

2-6-1. 名義貸しや架空取引が行われていないか

税務調査で特に厳しく追及されるのが、架空の外注費計上です。調査官は、外注先の実在性や取引の実態を様々な角度から確認します。例えば、以下のようなケースが問題として挙げられます。

  • 実際に存在しない個人事業主の名義を借りて外注費を計上する
  • 実態のない工事の請負契約を結んで外注費を計上する

外注費の計上に疑義があると、反面調査(外注先に対する調査)が行われる可能性が高まります。架空取引が発覚した場合は、外注費の否認に加え、重加算税が課される可能性もあります。

2-6-2. 支払調書と相手方の申告内容に矛盾がないか

個人事業主への報酬支払いに関しては、年間5万円以上の場合、支払調書の提出が義務付けられています。調査官はこの支払調書と、個人事業主側の確定申告内容を突き合わせることで、取引の整合性を確認します。

例えば、会社側が外注費として100万円を計上し、支払調書も提出しているにもかかわらず、外注先の個人事業主がその収入を申告していないケースでは、取引の実態に疑義が生じます。不整合が発見された場合は、詳細な調査の対象となる可能性が高まります。

3. 建設業が行うべき税務調査対策

税務調査への対応は事前準備が重要です。建設業特有のリスクに備えた対策を日頃から講じておくことで、調査時の負担を軽減し、追徴税額のリスクを抑えることができます。

  • 書類の整備と保存を徹底する

    • 領収書や請求書の保管ルールを決めておく
    • 電子帳簿保存法に対応しておく
  • 工事台帳を正確に記録する

    • 契約金額と実行予算を正確に管理する
    • 工事ごとの利益率を把握しておく
  • 現金取引の記録体制を強化する

    • 出納帳と現金実残高を定期的に照合する
    • 小口現金の支出を明確に管理する
  • 経理担当者の知識を向上させ、体制を整える

    • 税務知識のある人材を配置する
    • ミスを防ぐためにダブルチェック体制を構築する
  • 適格請求書発行事業者かを確認しておく

3-1. 書類の整備と保存を徹底する

書類の整備と保存を徹底することは、税務調査対策の上での基本となります。

3-1-1. 領収書や請求書の保管ルールを決めておく

建設業では多数の取引先との間で膨大な書類のやり取りが発生します。これらを適切に管理するためには、明確な保管ルールを設定することが重要です。

  • 書類の保存期間を明確に決めておく

    法人税法では帳簿書類の保存期間は原則7年、会社法では10年と定められています。安全を見て10年間の保存体制を整えることをお勧めします。

  • 年度、取引先、工事案件ごとにファイリングする

    スキャンした電子データの名前は、日付・金額・取引先名を組み合わせてつけましょう。

  • 領収書には受領者のサインや、使用目的のメモを付記する

    後から見ても取引内容が明確に分かるようにしておきましょう。特に交際費や会議費などの使途が問われやすい費目については、参加者名や目的を必ず記録しておくことをおすすめします。

3-1-2. 電子帳簿保存法に対応しておく

電子帳簿保存法により、電子取引データの電子保存が原則として義務化されました。建設業でも、メールで受領した請求書や領収書などは、紙に印刷するだけでは不十分で、電子データとして保存する必要があります。

電子帳簿保存法では、以下の要件を満たした保存が求められます。

  • システムの概要を記載した書類の備付け
  • プリントや画面表示が可能な装置の用意
  • 取引日や金額などで検索できる機能の確保
  • 改ざん防止のための措置(タイムスタンプの付与、訂正・削除履歴の保存、事務処理規程の整備など)

電子帳簿保存法への対応は、書類管理の効率化や用紙・印刷代のコスト削減といったメリットもあります。。また、書類の検索性が向上し、税務調査時に求められた資料をスムーズに提示できるようになるため、調査官に好印象を与えることにもつながります。

電子帳簿保存法について詳しく知りたい方は、国税庁の以下のサイトもご参照ください。
国税庁 電子取引関係

3-2. 工事台帳を正確に記録する

建設業の会計処理の基礎となるのが工事台帳です。これを正確に記録・管理することで、売上計上や原価管理の適正化につながります。

3-2-1. 契約金額と実行予算を正確に管理する

工事台帳には契約金額を正確に記載します。これに加えて実行予算を設定し、予算と発生原価を比較することで、異常値を早期に発見できます。また、契約金額については、追加工事があれば請負契約書を作成する必要があります。税務調査では契約金額と請求金額が突合されるため、変更内容を明確にしておくことが重要です。

3-2-2. 工事ごとの利益率を把握しておく

工事別の売上と原価を正確に把握し、工事ごとの利益率を算出しておくことは、税務調査対策としても有効です。通常、同種の工事であれば、利益率にも一定の傾向があるはずです。もし特定の工事だけが異常に高い利益率や低い利益率を示している場合、次のような誤りや不適切な処理が潜んでいる可能性があります。

  • 異常に高い利益率の場合

    • 原価の計上漏れがある可能性
    • 他の工事への費用の付け替えがある可能性
  • 異常に低い利益率の場合

    • 売上の計上漏れがある可能性
    • 原価の過大計上がある可能性

調査官も工事別の利益率に着目し、不自然な変動がある場合は詳細な説明を求めることがあります。事前に利益率の異常値をチェックし、合理的な説明ができるように準備しておくことが重要です。

3-3. 現金取引の記録体制を強化する

1-4でも述べたように、建設業では現金取引が多く発生し、税務上で処理に問題があるケースも多く見られます。現金管理をしっかりと行うことも、税務リスク低減のための重要なポイントです。

3-3-1. 出納帳と現金実残高を定期的に照合する

現金取引の透明性を確保するためには、出納帳(現金出納帳)の正確な記録と、定期的な実残高との照合が不可欠です。

具体的には、毎日の現金取引を漏れなく出納帳に記録し、週1回または月1回など定期的に現金の実残高と出納帳の残高を照合することが効果的です。もし差異が生じた場合は、速やかにその原因を究明し、解決しましょう。また、期末には必ず現金の実査を行い、残高証明書を作成することも重要です。

特に注意すべきは、2-1-3でも述べたように現金収入の記録漏れです。小規模な修繕工事や材料売却などで現金を受け取った場合も、必ず出納帳に記録し、後で売上として計上するようにしましょう。

3-3-2. 小口現金の支出を明確に管理する

現場経費や少額の資材購入など、小口現金からの支出も建設業では日常的に発生します。これらを適切に管理するためには、以下のような方法を取ると良いでしょう。

  • 小口現金の上限額を設定する
  • インプレスト制度(定額資金前渡制度)を導入する
  • 支出ごとに領収書を取得し、使途を明記する(取得できない場合は支出の日時や金額、目的などを記載した出金伝票を作成する)
  • 現場ごとに小口現金管理を行う場合は、本社との清算手続きを確立しておく

特に、領収書のない支出については、税務調査で否認されるリスクが高いため、可能な限り領収書を取得するよう徹底しましょう。やむを得ず領収書が取得できない場合は、支出の日時、金額、目的、支払先などを記録した出金伝票を作成するといった対策が必要です。

また、建設現場ごとに小口現金を管理する場合は、それぞれの現場の資金の流れを明確にし、本社との精算手続きを確立しておくことも重要です。現場間での資金移動が不透明だと、税務調査時に疑義を持たれる原因となります。

3-4. 経理担当者の知識を向上させ、体制を整える

建設業の会計処理は複雑で専門性が高いため、経理担当者の知識向上と適切な体制整備が不可欠です。

3-4-1. 税務知識のある人材を配置する

建設業の税務・会計に精通した担当者を配置できると、税務リスクの低減に繋げられる可能性があります。税務・会計に精通した人材を採用するのも手ですが、以下のような方法で担当者の知識を深めてもらうことも有効です。

  • 建設業経理士や建設業経理事務士の資格取得を奨励する
  • 税務・会計に関する研修会や勉強会に定期的に参加させる
  • 建設業の税務に特化したセミナーや書籍で常に最新の情報を得る

3-4-2. ミスを防ぐためにダブルチェック体制を構築する

会計処理のミスや不正を防止するためには、ダブルチェック体制の構築が効果的です。以下のような複数人によるチェックを実施することで、より正確な処理を行うことができます。

  • 請求書や領収書の確認を経理担当者と現場責任者など複数人で行う
  • 期末の決算整理仕訳などの重要な仕訳は、上長による承認を必須にする
  • 定期的に内部監査を実施し、会計処理の適正性をチェックする
  • 税理士など外部の専門家による定期的なレビューを受ける

特に注意すべきは、決算時の処理です。棚卸資産の計上、未成工事支出金の計算、減価償却費の計上など、決算特有の処理は複雑でミスが生じやすいため、複数人によるチェックが不可欠です。

3-5. 適格請求書発行事業者かを確認しておく

自社が適格請求書発行事業者として登録しているか、主要な取引先が適格請求書発行事業者として登録しているかを確認しましょう。インボイス制度では、消費税の仕入税額控除を受けるためには、原則として「適格請求書」(インボイス)の保存が必要です。適格請求書を発行できるのは、「適格請求書発行事業者」として登録を受けた事業者のみとなります。

特に、未登録の取引先との取引については、対応方針を明確に定めておくことが必要です。個人事業主である一人親方や小規模な下請業者の中には、免税事業者(課税売上高が1,000万円以下の事業者)が多く、インボイス制度の登録を行っていないケースも少なくありません。こうした事業者からの仕入れについては、2029年9月までは一部仕入税額控除可能であるものの、将来的には仕入税額控除が受けられなくなる点に注意が必要です。

インボイス制度への対応状況は税務調査の際にも確認される項目なので、適格請求書の保存状況や処理体制の整備状況をしっかりと管理しておくことが求められます。

4. 税務リスクを減らすために税理士と密接な連携をとろう

建設業の税務は複雑で専門性が高いため、税理士との連携は税務リスク低減の鍵となります。単に決算時だけでなく、日常的な連携体制を構築することが重要です。

4-1. 定期的に税理士と面談して現状を把握する

税理士との連携は、年に一度の決算時だけでなく、定期的に行うことが効果的です。例えば、四半期ごとや月次での面談を設定し、現在進行中の主要工事の状況や会計処理の方針について共有し、相談することが推奨されます。具体的には、以下のような事項を日頃より相談できていると、税務調査に対する備えにもつなげられるでしょう。

  • 新規に受注した大型工事の収益認識方法は工事進行基準か完成基準か
  • 特殊な取引や異例の支出に関しての税務上の取扱いや、問題がないか
  • 最新の税制改正情報の共有と、それが自社に与える影響はあるか
  • 資金繰りや利益見込みを踏まえた税務戦略
  • 期末の売上計上や原価計上に関するアドバイス
  • 一人親方への支払いや交際費の処理

日常的に発生する税務上の疑問点についても、都度相談できる関係を構築しておくことで、後から大きな問題に発展するリスクを減らせます。

4-2. 税務調査には税理士の立会いを依頼する

税務調査が実施される場合は、必ず税理士の立会いを依頼しましょう。税理士に立ち会ってもらえることで、調査官からの質問に適切に回答できたり、指摘事項の法的根拠や対応策について専門的なアドバイスを受けることができます。調査結果に対する異議申立てや不服申立ての必要性を判断する際にも、税理士の助言が役立ちます。

調査後の対応についても税理士のアドバイスが重要です。指摘を受けた事項の修正申告や、今後の再発防止策の立案など、税理士と連携して適切に対応しましょう。

4-3. 税理士にリスク分析を依頼して事前対策を講じる

税務調査を受ける前に、税理士による事前のリスク分析を依頼することも効果的な対策です。いわば「社内税務調査」を実施することで、実際の税務調査での指摘事項を減らすことができます。

具体的には、以下のような分析・対策を依頼するとよいでしょう。

  • 帳簿や決算書の税務的な観点からのチェック
  • 過去の税務調査事例を踏まえたリスク項目の洗い出し
  • 改善すべき点の明確化と対応策の提案
  • 想定される質問とその回答例の準備

特に過去3〜5年分の取引について重点的に確認することで、税務調査で指摘される可能性が高い項目を事前に把握し、必要に応じて修正申告を行うことも検討できます。自主的な修正は、追徴税額の軽減につながる可能性もあります。

また、税理士から指摘された事項については、単に修正するだけでなく、なぜそのような処理が行われたのかの原因分析も重要です。社内の会計処理フローやチェック体制の改善につなげることで、同様の問題の再発を防止できます。

5. まとめ

本記事では、建設業が税務調査対象となりやすい理由から、実際の調査で確認されるポイント、そして具体的な対策までを詳しく解説しました。

建設業は会計処理が複雑でミスが生じやすく、税務調査の対象となりやすい業種です。適切な書類管理、正確な工事台帳の記録、現金取引の透明化、経理体制の強化、インボイス制度への対応など、日頃からの準備が税務リスクの低減につながります。また、税理士との密接な連携も非常に重要です。定期的に税務状況を振り返り、潜在的なリスクを早期に発見・対処することで、税務調査時の負担も大幅に軽減できるでしょう。

建設業経営の安定化のためにも、この記事で紹介した対策を実践し、税務面でのリスク管理を徹底することをお勧めします。不安な点があれば早めに税理士に相談し、専門家の知見を活用しながら適切な税務管理体制を構築していきましょう。

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