【2025年版】「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」改訂ポイント整理と、IRMによる強固なアクセス制御の実践

2025年3月、文部科学省は「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を大幅に改訂しました。GIGAスクール構想の進展により、児童生徒一人一台端末環境が整備され、クラウドサービスの活用が日常化する中、従来のネットワーク分離を前提とした境界防御だけでは、多様化する脅威に対応できない現実が浮き彫りになっています。

今回の改訂では、「強固なアクセス制御」の定義が明確化され、情報資産の分類に基づく厳格な取扱制限、データ暗号化の必須化、シャドーIT対策など、実効性の高いセキュリティ対策が求められるようになりました。特に注目すべきは、ゼロトラストセキュリティの考え方に基づいた、利用者毎・情報毎のきめ細かなアクセス権限管理の重要性です。

本記事では、令和7年3月改訂版ガイドラインの主要な変更点を整理するとともに、IRM(情報権利管理)技術を活用した具体的なアクセス制御の実践方法について、教育委員会や学校現場のセキュリティ担当者向けに詳しく解説します。文部科学省が2025年度中に策定率100%を目指す教育情報セキュリティポリシーの実装に向けて、実務に即した対策を提示していきます。

目次

【令和7年3月改訂】教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン改訂の主要ポイント

令和7年3月に公表された「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」改訂版は、教育現場のDX推進とセキュリティ強化の両立を目指す内容となっています。特にクラウド活用が前提となる新しい学習環境において、従来の物理的なネットワーク分離だけでは対応できない課題に対処するため、アクセス制御を中心とした多層的な防御体制の構築が明確に示されました。

ここでは、教育委員会や学校現場が対応すべき改訂の主要ポイントを4つの観点から整理します。これらの変更点を理解することで、自組織のセキュリティポリシー見直しの方向性が明確になります。

情報資産の分類の定義見直しと具体化

改訂版ガイドラインでは、情報資産の重要性分類がⅠからⅣまでの4段階に整理され、それぞれの定義と具体例が明確化されました。この分類は、単なる整理のためではなく、後述するアクセス制御や取扱制限の基準として機能する重要な枠組みです。

重要性分類Ⅰには要配慮個人情報が該当し、個人の権利利益を害するおそれが高い情報として、最も厳格な管理が求められます。重要性分類Ⅱは機密性の高い個人情報や学校運営上の機密情報、重要性分類Ⅲは取扱いに一定の制限が必要な情報、重要性分類Ⅳは公開を前提とした情報とされています。教育現場では、成績情報、健康情報、家庭環境に関する情報など、多様なセンシティブ情報を扱うため、この分類基準に基づいた情報管理体制の整備が急務となっています。

重要性分類 定義 具体例 求められる対策レベル
重要性Ⅰ 要配慮個人情報を含む情報 健康診断結果、障害情報、いじめ相談記録 最高レベルの暗号化・アクセス制限必須
重要性Ⅱ 機密性の高い個人情報・組織情報 成績情報、指導要録、人事評価 厳格なアクセス制御・暗号化推奨
重要性Ⅲ 取扱いに制限が必要な情報 クラス名簿、保護者連絡先、学習記録 適切なアクセス権限設定
重要性Ⅳ 公開を前提とした情報 学校行事案内、教材データ、公開資料 基本的なセキュリティ対策

分類に基づく管理方法・取扱制限の厳格化

情報資産の分類が明確化されたことに伴い、それぞれの分類に応じた具体的な管理方法と取扱制限が厳格に定められました。特に重要性分類Ⅱ以上の情報については、外部持ち出し時の暗号化とアクセス制限が必須条件となっています。

ガイドラインでは、「教職員等は、重要性分類Ⅱ以上の情報資産を外部持ち出しする場合は、限定されたアクセスの措置設定(アクセス制限や暗号化)を行い、教育情報セキュリティ管理者の個別許可を得なければならない」と明記されています(第2編 3.2. (7) ① 42ページ)。これは、在宅勤務や校外での業務が増加する教職員の働き方改革に対応しつつ、情報漏洩リスクを最小化するための措置です。

また、取扱制限においては、単にアクセスの可否を制御するだけでなく、編集・閲覧・複製・ダウンロードといった操作ごとに権限を設定することの重要性が強調されています。ガイドラインは「取扱制限を行うに当たっては、特に必要な場合に限って必要な権限のみ(編集・閲覧・複製・ダウンロード等)を付与することが重要である」と述べており(第2編 3.2. (解説) (5) 45ページ)、最小権限の原則に基づいた運用が求められています。

「強固なアクセス制御」の再定義とゼロトラストへの移行

今回の改訂で最も重要な変更点の一つが、「強固なアクセス制御」の概念が明確に定義され、ゼロトラストセキュリティの考え方が全面的に導入されたことです。従来の境界防御型セキュリティから、「常にアクセスの適正さを確認する」モデルへの転換が明示されました。

ガイドラインにおける「強固なアクセス制御」の定義は以下の通りです。「インターネットを通信経路とする前提で、内部・外部からの不正アクセスを防御するために、多要素認証による利用者認証、端末認証、端末・サーバ・通信の監視・制御等を組み合わせたセキュリティ対策を指す。利用者毎に情報へのアクセス権限を適切に設定するとともに、①アクセスの真正性、②端末・サーバ・通信の安全性を確保する観点から、端末とクラウドサービスを提供するサーバ間の通信を暗号化し、認証により利用者のアクセスの適正さを常に確認しなければならない」(第3編 付録 (1) 184ページ)。

この定義から明らかなように、ネットワークの内側だから安全という前提は完全に否定され、すべてのアクセスについて真正性を検証し続けることが求められています。教育現場では、教職員だけでなく児童生徒、保護者、外部講師など多様な立場の利用者がシステムにアクセスするため、このゼロトラストの考え方に基づいた利用者毎のきめ細かな権限設定が不可欠となります。

従来の境界防御型 強固なアクセス制御(ゼロトラスト型)
ネットワーク分離で内部を保護 すべてのアクセスを常に検証
内部ネットワークは信頼される 内部・外部を問わず信頼しない
境界でのアクセス制御 利用者毎・情報毎のアクセス制御
固定的な権限設定 動的な認証と権限確認
通信経路の物理的分離 暗号化通信とアクセス監視

シャドーIT対策の明文化

GIGAスクール構想の進展により、教職員や児童生徒が個人所有のクラウドサービスやアプリケーションを無断で業務・学習に利用する「シャドーIT」が深刻な課題となっています。改訂版ガイドラインでは、このシャドーIT対策が初めて明文化され、組織として対応すべき具体的な方針が示されました。

シャドーITの問題は、組織が把握していないサービスで重要情報が扱われることにより、情報漏洩やマルウェア感染のリスクが高まる点にあります。特に教育現場では、利便性を優先して個人のクラウドストレージに成績データや児童生徒の個人情報を保存してしまうケースが後を絶ちません。こうした行為は、たとえ悪意がなくても重大なセキュリティインシデントにつながる可能性があります。

ガイドラインでは、許可されたクラウドサービス以外の利用を禁止するだけでなく、技術的な対策として、端末からの不正なデータ送信を検知・制御する仕組みの導入が推奨されています。同時に、教職員への定期的な研修を通じて、シャドーITのリスクを理解させ、承認されたサービスのみを利用する組織文化を醸成することの重要性が強調されています。後述するIRM技術は、このシャドーIT対策においても有効な解決策となります。

なぜ今、教育現場で「分類」と「アクセス制御」が重視されるのか

教育情報セキュリティポリシーの改訂において、情報資産の分類と強固なアクセス制御が中核に位置づけられた背景には、教育現場特有の複雑な状況があります。一般企業とは異なる教育機関の情報管理の難しさを理解することが、実効性のあるセキュリティ対策を講じる上での出発点となります。

ここでは、なぜ教育現場において分類とアクセス制御が特に重要視されるのか、その構造的な理由を3つの観点から解説します。これらの特性を踏まえた対策設計が、ガイドライン対応の鍵となります。

センシティブ情報と多様な利用者が混在する特殊性

教育現場が扱う情報は、児童生徒の成長に関わる極めてセンシティブな個人情報が中心であり、かつその情報にアクセスする主体も教職員・児童生徒・保護者・外部講師など多岐にわたります。この「高度なセンシティブ情報」と「多様なアクセス主体」の組み合わせが、教育機関のセキュリティ管理を複雑化させています。

例えば、同じ学級の児童生徒名簿であっても、担任教員は全情報へのアクセスが必要ですが、教科担当教員は授業に関連する範囲のみ、養護教諭は健康情報へのアクセスが必要、保護者は自分の子どもの情報のみ閲覧可能といったように、立場によって必要なアクセス権限が大きく異なります。さらに、児童生徒自身も学習記録や提出物にアクセスする必要がありますが、他の児童生徒の情報は閲覧できないようにする必要があります。

このような複雑なアクセス制御要件は、単純な「部署別」「役職別」の権限設定では対応できません。情報資産を適切に分類し、その分類に応じて利用者毎・状況毎にアクセス権限を動的に制御する仕組みが不可欠となるのです。ガイドラインが情報資産の分類を重視し、利用者毎のアクセス権限設定を強調しているのは、この教育現場特有の複雑性に対応するためです。

次世代校務DX(クラウド移行)に伴う境界防御の限界

GIGAスクール構想により一人一台端末環境が整備され、校務支援システムや学習管理システムのクラウド化が急速に進んでいます。これにより、教職員は学校外からでも業務を行えるようになり、児童生徒は自宅からでも学習コンテンツにアクセスできるようになりました。こうした校務DXの進展は教育の質向上と働き方改革に貢献する一方で、従来の境界防御型セキュリティモデルの限界を露呈させています。

従来の教育情報セキュリティは、校務系・校務外部接続系・学習系という3つのネットワーク領域を物理的または論理的に分離し、それぞれの境界でアクセスを制御する考え方が主流でした。しかし、クラウドサービスが普及し、インターネットを経由した情報アクセスが日常化すると、この「境界」という概念自体が曖昧になります。教職員の自宅のネットワークや、児童生徒が使用する家庭のWi-Fi環境は、学校が管理する境界の外側にあり、従来型の防御では保護できません。

文部科学省が掲げる教育DXに係るKPIでは、2025年度中に教育委員会の情報セキュリティポリシー策定率100%を目標としており、すべての教育委員会がこの新しい環境に対応したセキュリティ体制を構築することが求められています。境界防御に依存せず、どこからアクセスしても情報そのものが保護される仕組み、すなわち「データ中心のセキュリティ」への転換が不可欠となっているのです。

利用シーン 境界防御型の課題 強固なアクセス制御での対応
教職員の在宅勤務 学校ネットワーク外のため保護が困難 端末認証・多要素認証で利用者を確認
児童生徒の自宅学習 家庭のネットワーク環境を制御できない ファイル単位での暗号化とアクセス制限
クラウドサービス利用 境界の外側にデータが存在する データ自体を暗号化し権限管理
BYOD(私物端末利用) 管理外端末からのアクセス 端末状態の確認と条件付きアクセス

データ暗号化技術の必須化

改訂版ガイドラインでは、強固なアクセス制御を実現するための中核技術として、データ暗号化が明確に位置づけられました。これは単なる推奨事項ではなく、インターネット接続を前提とするシステムにおいては必須の対策とされています。

ガイドラインでは、「教育情報システム管理者は、インターネット接続を前提とする校務外部接続系サーバ及び学習系サーバに保管する情報(学習系サーバにおいては、個人情報などを含む重要性が高い情報を保管する場合に限る)については、標的型攻撃等によるデータの外部流出の可能性を考慮し、データ暗号化等による安全管理措置を講じなければならない」と明記されています(第2編 6.1. (1) ④ 90ページ)。

この要求の背景には、たとえ強固な認証や通信暗号化を行っていても、サーバが侵害されデータベースが直接攻撃されるリスクや、管理者権限の不正利用によるデータ窃取のリスクが存在するという認識があります。通信経路やアクセス認証を守るだけでなく、保存されているデータそのものを暗号化することで、万が一データが外部に持ち出された場合でも内容を保護する「最後の砦」としての役割が期待されているのです。

また、端末内のデータ保護についても、「教育情報システム管理者は、特に強固なアクセス制御による対策を講じたシステム構成の場合、重要性分類Ⅱ以上の情報資産を取り扱う端末に対し、当該データ暗号化等の措置により、不正アクセスや教員の不注意等による情報流出への対策を講じなければならない」とされており(第2編 4.4. (6) 60ページ)、端末の紛失や盗難に備えた対策としても暗号化が重視されています。教育現場では教職員が端末を校外に持ち出す機会が多いため、この要件は特に重要な意味を持ちます。

IRM(情報権利管理)によるアクセス制御の実践的解決

ガイドラインが求める「強固なアクセス制御」を実現するためには、利用者認証や通信暗号化といった従来型の対策に加えて、情報そのものに保護を付与する技術が必要です。IRM(Information Rights Management)は、まさにこの要件を満たす技術として、教育現場での活用が期待されています。

ここでは、IRMがなぜガイドライン対応の最適解となるのか、その技術的特徴と教育現場への適用可能性について詳しく解説します。従来のアクセス制御手法との違いを理解することで、IRM導入の意義が明確になります。

なぜIRMがガイドライン対応の最適解なのか

IRMは、ファイル一つひとつに暗号化とアクセス権限情報を埋め込むことで、ファイルがどこに移動しても、誰がアクセスしても、設定された権限に従った操作のみを許可する技術です。この特性が、ガイドラインが求める「利用者毎の権限設定」「データ暗号化」「取扱制限の徹底」という要件を同時に満たすことを可能にします。

従来のアクセス制御は、主にファイルサーバやデータベースなどの「保管場所」に対する権限設定でした。しかし、この方式ではファイルがダウンロードされて保管場所から離れた瞬間に、権限管理が及ばなくなってしまいます。教職員が自宅に持ち帰った端末内のファイル、個人のUSBメモリにコピーされたファイル、メールで送信されたファイルなどは、もはや元のサーバの権限設定では保護できません。

一方、IRMではファイル自体に権限情報が組み込まれているため、ファイルがどこに移動しても、コピーされても、メールで転送されても、常に設定された権限が有効です。「このファイルは○○先生のみ編集可能、△△先生は閲覧のみ可能、印刷・コピーは禁止」といった細かな制限を、ファイルの保管場所や利用環境に関わらず維持できるのです。この特性は、クラウドサービスの利用や在宅勤務が増える教育現場において、極めて有効なセキュリティ対策となります。

項目 従来型アクセス制御 IRM(情報権利管理)
制御対象 保管場所(サーバ・フォルダ) ファイル自体
保護範囲 保管場所内のみ ファイルの移動先でも有効
ダウンロード後 保護が失われる 権限が維持される
操作制限 アクセス可否のみ 閲覧・編集・印刷・コピー等を個別制御
権限変更 保管場所の設定変更が必要 ファイル単位で動的に変更可能
監査ログ サーバアクセスのみ記録 ファイル操作の詳細を記録

持ち出し時やクラウド利用時でも「分類」と「取扱制限」を維持する仕組み

ガイドラインでは、重要性分類Ⅱ以上の情報を外部持ち出しする際には「限定されたアクセスの措置設定(アクセス制限や暗号化)」が必須とされていますが(第2編 3.2. (7) ① 42ページ)、実際の運用では教職員の負担が大きく、徹底が困難という課題がありました。個別に暗号化処理を行い、パスワードを管理し、利用後に確実に削除するという一連の作業は、日常業務の中で確実に実施するには煩雑すぎるからです。

IRMを活用すれば、この課題を解決できます。ファイルサーバに保存された時点で自動的にファイルに暗号化と権限情報が付与されるため、教職員が意識することなく、すべてのファイルが保護された状態になります。その後、そのファイルを自宅の端末にダウンロードしても、クラウドストレージに保存しても、USBメモリにコピーしても、ファイルに組み込まれた権限設定は維持され続けます。

例えば、重要性分類Ⅱの成績データファイルに「担任教員のみ編集可能、学年主任は閲覧のみ可能、印刷・スクリーンショット・コピー禁止、アクセス期限は学期末まで」という権限を設定しておけば、そのファイルがどこに移動しても、誰がアクセスを試みても、この制限が有効です。権限のない教員がファイルを開こうとしても暗号化により内容は表示されず、権限のある教員でも設定された操作のみが可能となります。

また、クラウドサービス利用時の課題についても、IRMは有効な対策となります。ガイドラインでは、「クラウドサービスから端末にファイルをダウンロードする際は、情報資産の外部持ち出しに基づく安全管理措置として、端末の安全性を事前に確認するとともに、作業が終わり次第当該端末から情報資産をすみやかに消去しなければならない」とされています(第2編 9.3. (4) ② 168ページ)。しかし、作業後の削除を徹底することは現実的には困難であり、削除忘れによる情報残留が常にリスクとなります。

IRM保護されたファイルであれば、たとえ端末に残ってしまっても、アクセス期限が過ぎればファイルは自動的に開けなくなり、権限を取り消せば即座にアクセス不可となります。これにより、物理的な削除に依存しない、より確実な情報保護が実現できるのです。

シャドーIT対策としての「ファイル自体へのセキュリティ付与」

シャドーITの最大の問題は、組織が管理していないサービスや環境で重要情報が扱われることにより、情報の所在や取扱状況を把握できなくなることです。IRMは、この問題に対しても有効なアプローチを提供します。

通常のファイルは、許可されていないクラウドストレージや個人のメールアカウントに保存されてしまうと、組織の管理が及ばなくなります。しかし、IRM保護されたファイルは、たとえ無断で個人のクラウドサービスにアップロードされたとしても、ファイルを開く際には必ず組織の権限サーバに認証を求めるため、誰がいつどこでファイルにアクセスしたかを記録できます。

さらに、不正なアクセスや情報持ち出しが発覚した場合、管理者は該当ファイルの権限を即座に取り消すことができます。すでに外部に持ち出されたファイルであっても、次回アクセス時には権限が無効となり開けなくなるため、被害の拡大を防ぐことができます。この「事後的な制御」の能力は、従来のアクセス制御にはなかった大きな利点です。

また、IRM製品の多くは、どのファイルがどこでアクセスされたかを可視化する機能を持っており、想定外の場所や時間帯でのアクセスを検知することができます。これにより、シャドーITの利用を早期に発見し、教職員への指導や対策を講じることが可能になります。技術的な制御と、可視化による早期発見・対応を組み合わせることで、シャドーITに対する実効性の高い対策が実現できるのです。

純国産IRM「DataClasys」で実現する、教育現場に即した柔軟な運用とセキュリティ

IRMの有効性を理解した上で、実際に教育現場に導入する際には、運用負荷の低さ、教育機関特有の複雑な権限管理への対応、確実な監査ログの取得といった実務要件を満たす製品選定が重要になります。ここでは、純国産IRM製品「DataClasys」を例に、教育現場での具体的な実装方法と運用イメージを解説します。

DataClasysは、文部科学省のガイドライン要件を満たすように設計された国産製品であり、既に複数の教育委員会や学校法人で導入実績があります。ここでは特に教育現場で評価されている3つの特徴について詳しく見ていきます。

自動暗号化と運用負荷の解消

教育現場でのセキュリティ対策が形骸化する最大の原因は、教職員の運用負荷が高すぎることです。いくら優れた技術でも、日常業務の中で確実に実行できなければ意味がありません。DataClasysは、この運用負荷を極限まで下げる設計思想に基づいています。

DataClasysの最大の特徴は、ファイルサーバの指定フォルダに保存されたファイルを自動的に暗号化し、権限情報を付与する「自動保護機能」です。教職員は従来通りファイルサーバにファイルを保存するだけで、バックグラウンドでDataClasysがファイルを検知し、事前に設定されたポリシーに基づいて自動的に保護処理を実行します。教職員側で暗号化ソフトを起動したり、パスワードを設定したりといった追加作業は一切不要です。

例えば、「成績管理」フォルダには重要性分類Ⅱのポリシーを適用し、「学年だより」フォルダには重要性分類Ⅲのポリシーを適用するといった設定をしておけば、教職員がファイルを適切なフォルダに保存するだけで、自動的に分類に応じた保護が適用されます。ガイドラインが求める「情報資産の分類に基づく管理」が、教職員の意識や作業に依存せず、システム側で自動的に実現されるのです。

作業フロー 従来の暗号化ソフト DataClasysの自動保護
ファイル作成 通常通り作成 通常通り作成
保護処理 暗号化ソフトを起動し、ファイルを指定して暗号化 指定フォルダに保存するだけで自動暗号化
パスワード管理 パスワードを設定し、別途共有方法を考える 権限設定に基づき自動認証(パスワード不要)
権限変更 再暗号化が必要 管理画面で権限変更するだけで即反映
利用時 復号化の手順が必要 権限があればそのまま開ける

複雑な権限管理の実装

教育現場の情報管理で最も困難なのが、同じファイルでも利用者の立場によってアクセス可能な範囲が異なるという複雑な権限要件です。DataClasysは、利用者の属性(教職員・児童生徒・保護者)、所属(学年・クラス・教科)、役割(管理職・担任・教科担当)などを組み合わせた、極めて細かい権限設定を柔軟に実装できます。

例えば、学習記録ファイルに対して以下のような複雑な権限を設定することができます。「担任教員は全項目の編集が可能、教科担当教員は自分の教科の項目のみ閲覧・編集可能、管理職は全項目閲覧可能だが編集不可、保護者は自分の子どもの記録のみ閲覧可能、児童生徒本人は自分の記録を閲覧可能だが成績評価部分は非表示、卒業後は全員アクセス不可」。このような詳細な制御が、ファイル単位で設定できます。

また、ガイドラインが強調する「必要な権限のみを付与する」という最小権限の原則も、DataClasysでは徹底して実装できます。単にファイルを「開ける・開けない」だけでなく、閲覧のみ・編集可能・印刷可能・コピー可能・スクリーンショット可能・ダウンロード可能といった操作を個別に制御できるため、「見ることはできるが印刷やコピーはできない」「閲覧はできるが他のファイルへの転記はできない」といった細かな取扱制限が実現できます。

さらに、権限は動的に変更可能です。例えば、学期中は担任教員が編集可能な成績ファイルを、学期末の確定後は管理職の承認がなければ編集できないように変更する、あるいは年度末には全教職員が閲覧のみ可能にするといった運用が、ファイルを再配布することなく実現できます。この柔軟性により、教育現場の複雑な情報管理要件に対応できるのです。

ログ管理による監査対応と不正アクセスの早期発見

ガイドラインにおけるアクセス制御は、単に不正アクセスを防ぐだけでなく、すべてのアクセスを記録し、定期的に監査できる体制の構築も求められています。DataClasysは、IRM保護されたすべてのファイルに対するアクセスログを詳細に記録し、可視化する機能を備えています。

記録される情報には、誰が(ユーザー名)、いつ(日時)、どこで(IPアドレス・端末情報)、どのファイルに対して、どのような操作(開く・編集・印刷・コピー試行等)を行ったか、その操作が許可されたか拒否されたかが含まれます。これにより、万が一情報漏洩インシデントが発生した場合でも、どのファイルが、いつ、誰によって不正にアクセスされたかを特定でき、被害範囲の確定と原因究明が可能になります。

また、DataClasysの管理画面では、アクセスログを様々な条件で検索・集計できるため、定期的なセキュリティ監査にも対応できます。「深夜や休日の異常なアクセス」「大量のファイルダウンロード」「通常と異なる場所からのアクセス」「権限外のファイルへのアクセス試行」といった不審な挙動を検知するアラート機能も備えており、インシデントの予兆を早期に発見できます。

ガイドラインでは、アクセスログの取得と定期的な確認が推奨されていますが、DataClasysを導入することで、従来のファイルサーバのアクセスログよりもはるかに詳細で、セキュリティ監査に有用なログ情報を取得できます。これは、教育委員会や学校法人が説明責任を果たし、保護者や地域社会からの信頼を得る上でも重要な要素となります。

監査項目 DataClasysで確認できる内容 活用例
アクセス実績 誰がいつどのファイルにアクセスしたか 重要情報へのアクセス状況の定期監査
権限外アクセス試行 権限のないファイルへのアクセス試行記録 不正アクセスの早期発見・教職員への注意喚起
異常な操作パターン 大量ダウンロード・深夜アクセス等 情報持ち出しの予兆検知
外部からのアクセス 学校外のIPアドレスからのアクセス 在宅勤務時の適正利用確認
印刷・コピー実績 印刷やコピー操作の実行記録 紙媒体での情報持ち出し管理

まとめ

2025年3月に改訂された「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」は、GIGAスクール構想の進展とクラウドサービスの普及という教育環境の変化に対応し、従来の境界防御型から強固なアクセス制御へと、セキュリティの考え方を根本的に転換するものです。特に情報資産の分類に基づく厳格な管理、利用者毎のアクセス権限設定、データ暗号化の必須化、シャドーIT対策の明文化といった要件は、教育委員会や学校現場に実効性のある対策を求めています。

これらの要件を実現する上で、IRM技術は極めて有効なソリューションです。ファイルそのものに暗号化と権限情報を組み込むことで、ファイルがどこに移動しても保護が維持され、利用者毎・操作毎の細かな制御が可能になります。純国産IRM製品「DataClasys」に代表されるような、自動保護機能と柔軟な権限管理、詳細なログ記録を備えたソリューションを活用することで、教職員の負担を増やすことなく、ガイドラインが求める強固なアクセス制御を実現できます。

文部科学省が掲げる2025年度中の情報セキュリティポリシー策定率100%という目標達成に向けて、各教育委員会・学校法人は具体的な対策の実装を急ぐ必要があります。情報資産の適切な分類、アクセス制御の強化、データ暗号化の導入という3つの柱を、IRM技術を活用しながら着実に実現していくことが、児童生徒の個人情報を守り、保護者や地域社会からの信頼を得る教育情報セキュリティ体制の構築につながります。

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