建設業界では深刻な人手不足が続いており、外国人材の活用が経営課題の解決策として注目されています。特定技能制度は、即戦力となる外国人労働者を受け入れるための在留資格として2019年に創設されました。
しかし、建設分野では他の業種にはない独自の要件が設けられており、JAC加入やCCUS登録、建設特定技能受入計画の認定など、複雑な手続きが必要です。これらの要件を正しく理解せずに採用を進めると、審査で差し戻されたり、受け入れ後にトラブルが発生したりするリスクがあります。
本記事では、建設業における特定技能外国人の受け入れについて、制度の基礎知識から採用方法、費用、実務上の手続きまで徹底的に解説します。採用担当者の方が迷わず実務を進められるよう、具体的な手順やチェックポイントを網羅していますので、ぜひ最後までお読みください。
特定技能制度とは?|建設業で知っておくべき基礎知識
特定技能制度は、日本国内で深刻化する人手不足に対応するため、一定の専門性や技能を持つ外国人材を受け入れる仕組みとして設計されました。建設分野は制度創設当初から対象となっており、現在も最も受け入れニーズの高い分野の一つです。
ここでは、特定技能制度の基本的な仕組みと、建設分野特有のルールについて解説します。制度を正しく理解することが、スムーズな採用と適切な雇用管理の第一歩となります。
在留資格「特定技能」の基礎知識と建設分野の現状
特定技能とは、人手不足が深刻な産業分野において、即戦力となる外国人材を受け入れるための在留資格です。技能実習制度が「技術移転による国際貢献」を目的とするのに対し、特定技能は「労働力の確保」を明確な目的としている点が大きな違いです。
特定技能には1号と2号の2種類があり、1号は相当程度の知識または経験を必要とする業務に従事する外国人向け、2号はより熟練した技能を持つ外国人向けの在留資格となっています。建設分野は、両方の在留資格が認められている数少ない分野の一つです。
2025年6月末時点の最新統計(出入国在留管理庁発表)によると、建設分野の特定技能外国人は4.4万人を超え、着実に増加しています。技能実習修了者から特定技能への移行率は約4割となっており、今後もこの傾向は続くと予測されています。
| 項目 | 技能実習 | 特定技能 |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 技術移転による国際貢献 | 人手不足分野への労働力確保 |
| 受け入れ人数枠 | 常勤職員数に応じた制限あり | 制限なし(建設業は例外あり) |
| 転職の可否 | 原則不可 | 同一分野内で可能 |
| 求められる技能水準 | 入国時は未経験可 | 入国前に試験合格が必要 |
上記の表からわかるように、特定技能は技能実習と比較して、より「労働者」としての位置づけが明確な制度です。企業にとっては即戦力人材を確保できるメリットがある一方、外国人材にとっても転職が認められるなど、より柔軟な働き方が可能となっています。
制度創設の背景と今後の受け入れ見込み|8万人の枠
建設分野における特定技能外国人の受け入れ見込み数は、2024年度から2028年度の5年間で最大約8万人と設定されています。この数字は、建設業界の人手不足の深刻さを反映したものです。
国土交通省の推計によると、建設技能者の高齢化が進んでおり、今後10年間で約100万人が離職すると見込まれています。一方で、若年層の入職者は減少傾向にあり、国内人材だけでは必要な労働力を確保することが困難な状況です。
特定技能制度は当初14分野でスタートしましたが、2024年から2025年にかけて自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野が追加され、現在は全16分野となっています。建設分野においても業務範囲の柔軟化が進められており、対応できる職種は18職種まで拡大しました。
さらに、2027年には育成就労制度が開始される予定です。この制度は技能実習制度に代わるものとして位置づけられており、特定技能との接続がより円滑になると期待されています。特定技能と育成就労制度を合計した受け入れ上限は、2028年度末までに約123万人と設定されています。
- 建設分野の特定技能受け入れ見込み数:5年間で最大約8万人
- 対応職種数:18職種(技能実習対象職種の92%をカバー)
- 特定技能と育成就労制度の合計受け入れ上限:約123万人(2028年度末まで)
- 2027年:育成就労制度開始予定
これらの数字は、政府が外国人材の受け入れを本格的に推進していることを示しています。建設業の企業にとっては、今後の人材確保戦略において特定技能制度の活用が重要な選択肢となるでしょう。
特定技能1号と2号の違い|建設業における比較
特定技能には1号と2号の2つの区分があり、それぞれ求められる技能水準や在留期間、家族帯同の可否などが異なります。建設分野は、特定技能2号が認められている分野の一つであり、長期的なキャリア形成を視野に入れた人材活用が可能です。
ここでは、1号と2号の具体的な違いを整理し、建設現場での役割の違いについても解説します。採用する側として、どちらの人材を求めているのかを明確にすることが重要です。
技能水準・在留期間・家族帯同・日本語能力の比較表
特定技能1号と2号の最も大きな違いは、在留期間の上限と家族帯同の可否です。1号は通算5年が上限で家族帯同が認められませんが、2号は在留期間の更新に上限がなく、配偶者と子どもの帯同が可能です。
技能水準については、1号が「相当程度の知識または経験を必要とする業務」に従事できるのに対し、2号は「熟練した技能を要する業務」に従事することが求められます。つまり、2号は1号よりも高度な技能が必要とされています。
| 比較項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 技能水準 | 相当程度の知識・経験 | 熟練した技能 |
| 在留期間 | 通算5年が上限 | 上限なし(更新可能) |
| 家族帯同 | 原則不可 | 配偶者・子どもの帯同可 |
| 日本語能力 | N4相当以上 | 試験での確認なし |
| 支援の必要性 | 義務的支援が必要 | 支援不要 |
| 永住申請への道 | 1号期間は永住要件に算入されない | 永住要件に算入される |
日本語能力については、1号取得時にはN4相当以上が求められますが、2号への移行時には日本語試験による確認は行われません。ただし、建設分野では対人業務やチームリーダーとしての役割が求められるため、実務上はN3以上の日本語能力があることが望ましいとされています。
また、1号の外国人には受け入れ企業または登録支援機関による支援が義務づけられていますが、2号にはこの義務がありません。企業にとっては、2号人材を雇用する場合、支援に関する事務負担が軽減されるというメリットがあります。
現場における「作業員(1号)」と「班長・指導者(2号)」の役割の違い
建設現場において、特定技能1号は主に作業員として従事し、2号は班長や指導者としての役割を担います。この役割の違いは、制度上求められる技能水準の差を反映したものです。
特定技能1号の外国人は、日本人の技能者と同等の作業を行いますが、基本的には指示を受けて業務を遂行する立場です。一方、2号の外国人は、作業グループのリーダーとして他の作業員への指示や技術指導を行うことが期待されています。
具体的な役割の違いは以下のとおりです。
- 特定技能1号:施工図面の理解と作業実施、安全管理の遵守、品質基準に基づく施工
- 特定技能2号:作業工程の管理、後輩作業員への技術指導、現場での判断と問題解決、元請け企業との調整
企業が特定技能外国人を採用する際には、現場でどのような役割を担ってほしいのかを明確にし、1号と2号のどちらを採用すべきかを検討することが重要です。長期的に活躍してもらいたい場合は、1号で採用した後に2号への移行を支援する育成計画を立てることも有効な戦略となります。
特定技能2号を取得するには?|試験内容と合格のコツ
特定技能2号への移行は、1号で経験を積んだ外国人材のキャリアアップの道として重要な意味を持ちます。2号を取得することで在留期間の上限がなくなり、家族帯同も可能になるため、長期的に日本で働き続けたい外国人材にとって大きな目標となっています。
ここでは、建設分野における特定技能2号評価試験の内容と、実務経験要件について詳しく解説します。企業として2号取得を支援することは、優秀な人材の定着につながる重要な取り組みです。
建設分野特定技能2号評価試験の概要と合格のポイント
特定技能2号の取得には、建設分野特定技能2号評価試験への合格と、班長としての実務経験の両方が必要です。どちらか一方だけでは2号への移行は認められません。
2号評価試験は、1号評価試験よりも高度な内容が問われます。試験では、単に作業ができるかどうかだけでなく、作業工程の管理や品質管理、安全管理に関する知識、さらには後輩への指導能力も評価の対象となります。
試験の構成は以下のとおりです。
| 試験項目 | 内容 | 出題形式 |
|---|---|---|
| 学科試験 | 施工管理、品質管理、安全管理、関連法規 | 筆記(択一式・記述式) |
| 実技試験 | 実際の作業能力、判断力、指導力 | 作業実演 |
合格のポイントとしては、日常業務の中で意識的に管理業務や指導経験を積むことが重要です。単に作業をこなすだけでなく、なぜその作業が必要なのか、どのような手順で進めるべきかを論理的に説明できる力を養うことが求められます。
企業としては、2号取得を目指す外国人材に対して、以下のような支援を行うことが効果的です。
- 班長業務を経験させる機会を計画的に設ける
- 安全教育や品質管理研修への参加を促す
- 日本語学習の支援(N3以上の取得を目標に)
- 過去問題や参考資料の提供
これらの支援を通じて、外国人材の成長を促すとともに、企業にとっても将来の現場リーダー候補を育成することができます。
班長としての実務経験|実務経験証明書の認定基準と注意点
特定技能2号の取得には、建設現場において複数の技能者を指導しながら作業に従事した経験が必要です。この経験は、実務経験証明書によって証明する必要があります。
実務経験として認められるのは、単に長期間働いた経験ではなく、班長やリーダーとして後輩作業員を指導・監督した経験です。具体的には、作業グループのとりまとめや、作業工程の管理、技術指導などの業務に従事していたことが求められます。
実務経験証明書の認定基準については、以下の点に注意が必要です。
- 原則として3年以上の実務経験が必要
- そのうち、班長等として従事した経験が1年以上必要
- 証明書は雇用主である企業が発行する
- 証明内容には、従事した業務の具体的な内容を記載する
- 虚偽の証明は厳しく処分される
企業が証明書を発行する際には、実際の業務内容と証明内容が一致していることを十分に確認してください。証明内容に疑義がある場合は、追加資料の提出を求められたり、最悪の場合は不正行為として処分の対象となったりする可能性があります。
また、建設キャリアアップシステム(CCUS)に登録された就業履歴も、実務経験の証明に活用されます。CCUSへの登録を適切に行い、就業履歴を正確に記録しておくことが重要です。
技能実習2号・3号から特定技能への移行ルート
技能実習制度から特定技能制度への移行は、建設業における外国人材確保の主要なルートの一つとなっています。技能実習2号または3号を良好に修了した外国人は、一定の条件を満たせば、特定技能評価試験と日本語試験が免除されるという大きなメリットがあります。
ここでは、試験免除で移行するための条件と、手続きの進め方について解説します。自社で受け入れている技能実習生の移行を検討している企業は、ぜひ参考にしてください。
試験免除で移行するための条件|職種・作業の対応関係
技能実習2号を良好に修了した外国人は、従事していた職種・作業に対応する特定技能の業務区分において、試験が免除されます。ただし、すべての技能実習職種が特定技能に対応しているわけではないため、職種・作業の対応関係を事前に確認することが重要です。
建設分野においては、技能実習対象職種の約92%が特定技能でカバーされており、18職種が対応しています。主な対応職種は以下のとおりです。
| 技能実習の職種・作業 | 特定技能の業務区分 | 試験免除 |
|---|---|---|
| 型枠施工 | 型枠施工 | 可 |
| 鉄筋施工(鉄筋組立て作業) | 鉄筋施工 | 可 |
| とび | とび | 可 |
| 建築大工 | 建築大工 | 可 |
| 左官 | 左官 | 可 |
| 配管(建築配管作業) | 配管 | 可 |
試験免除の条件となる「良好に修了」とは、単に在留期間を満了したことではなく、以下の要件をすべて満たしている必要があります。
- 技能実習2号としての活動を2年8か月以上修了していること
- 技能検定3級(または技能実習評価試験・専門級)の実技試験に合格していること
- 不合格または未受検の場合、実習実施者(受入れ企業)が作成した「実習中の習得状況が良好である」旨を記した評価調書の提出ができること
特に他社の技能実習生を採用(転職)して移行させる場合、元の受入れ企業から「評価調書」への協力が得られないと試験免除が認められないリスクがあります。また、技能実習で従事していた職種と、移行先の特定技能の業務区分に「対応関係」がない場合も試験免除の対象外となり、別途「特定技能評価試験」の合格が必要となる点に注意してください。
移行手続きのベストタイミングと必要書類の全体像
技能実習から特定技能への移行手続きは、技能実習の在留期間が満了する3〜4か月前から開始するのが理想的です。手続きに時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。
移行手続きに必要な主な書類は以下のとおりです。
- 在留資格変更許可申請書
- 特定技能雇用契約書の写し
- 特定技能雇用契約に係る重要事項事前説明書
- 1号特定技能外国人支援計画書
- 技能実習2号修了証明書または技能検定合格証明書
- 建設特定技能受入計画認定証(国土交通省発行)
- JACの賛助会員または正会員であることの証明
- CCUS登録証明書
建設分野特有の要件として、国土交通省による建設特定技能受入計画の認定が必要です。この認定には通常1〜2か月程度かかるため、入管への在留資格変更申請よりも先に手続きを進める必要があります。
移行手続きの標準的なスケジュールは以下のとおりです。
- 技能実習終了の4か月前:JAC加入、CCUS登録の確認・手続き開始
- 3か月前:建設特定技能受入計画の認定申請
- 2か月前:受入計画の認定取得、在留資格変更許可申請
- 1か月前:在留資格変更許可取得
- 技能実習終了日の翌日:特定技能として就労開始
技能実習の在留期間が満了してから特定技能の在留資格が取得できるまでの間、在留資格がない状態(空白期間)が生じないよう、スケジュール管理を徹底してください。
特定技能外国人の3つの採用方法|ルート別解説
特定技能外国人を採用する方法は、大きく分けて3つあります。自社の技能実習生から移行させる方法、海外から新規に呼び寄せる方法、そして国内で転職希望者を採用する方法です。それぞれにメリット・デメリットがあり、企業の状況に応じて最適な方法を選択することが重要です。
ここでは、各採用ルートの特徴と具体的な手順を解説します。自社に合った採用方法を見つける参考にしてください。
【方法1】自社の技能実習生から特定技能へ移行させる手順|継続雇用
自社で受け入れている技能実習生を特定技能に移行させる方法は、最もリスクが低く、スムーズな採用が可能です。すでに自社の業務や職場環境に慣れている人材を継続雇用できるため、教育コストの削減にもつながります。
この方法のメリットは以下のとおりです。
- 人柄や技能をすでに把握しているため、ミスマッチのリスクが低い
- 職場環境や同僚との関係が構築されており、即戦力として活躍できる
- 試験免除の条件を満たしている場合が多い
- 採用コストを抑えられる
移行の手順は以下のとおりです。
- 本人に特定技能への移行意向を確認する
- JAC加入、CCUS登録を完了させる(未対応の場合)
- 特定技能雇用契約を締結する
- 建設特定技能受入計画の認定を申請する
- 支援計画を策定する(自社支援または登録支援機関への委託)
- 在留資格変更許可申請を行う
- 許可取得後、特定技能として就労開始
注意点として、技能実習時と異なる職種で特定技能として雇用する場合は、対応する試験に合格する必要があります。また、技能実習から特定技能への移行にあたっては、本人の自由意思による同意が必要であり、強制的な移行は認められません。
【方法2】海外から試験合格者を呼び寄せる新規採用の手順|送り出し連携
海外で特定技能評価試験と日本語試験に合格した人材を呼び寄せる方法は、即戦力人材を新規に確保できるメリットがあります。特定技能評価試験は海外でも実施されており、日本に来る前から一定の技能と日本語能力を持った人材を採用できます。
この方法では、送出国の人材紹介会社や送り出し機関との連携が重要になります。特にベトナム、フィリピン、インドネシアなどからの受け入れが多く、これらの国々には多くの送り出し機関が存在しています。
採用の手順は以下のとおりです。
- 送り出し機関または人材紹介会社を選定する
- 候補者の紹介を受け、面接を実施する(オンライン面接も可)
- 採用者を決定し、雇用契約を締結する
- JAC加入、CCUS登録を完了させる
- 建設特定技能受入計画の認定を申請する
- 在留資格認定証明書交付申請を行う
- 認定証明書取得後、本人が現地でビザを取得
- 来日後、特定技能として就労開始
海外からの採用では、入国後3か月以内に受入後講習を実施する義務があります。この講習では、建設現場で必要な安全衛生教育や技能習得計画に関する説明を行います。
| 比較項目 | 技能実習からの移行 | 海外からの新規採用 |
|---|---|---|
| 人材の把握 | 十分に把握済み | 面接のみで判断 |
| 採用までの期間 | 2〜3か月 | 4〜6か月 |
| 初期教育コスト | 低い | やや高い |
| 紹介手数料 | 不要 | 必要 |
海外からの採用は、技能実習生を受け入れていない企業や、大量採用を計画している企業にとって有効な選択肢です。
【方法3】国内在住の特定技能人材|転職者を採用する際の見極めポイント
国内にすでに在住している特定技能外国人を中途採用する方法は、採用までの期間が最も短いという特徴があります。すでに在留資格を持っているため、在留資格変更ではなく在留資格更新の手続きで対応できる場合もあります。
特定技能は転職が認められているため、他社で就労している特定技能外国人が転職先を探しているケースがあります。国内の人材紹介会社や外国人専門の求人サイトを通じて候補者を見つけることができます。
転職者を採用する際の見極めポイントは以下のとおりです。
- 前職の退職理由を丁寧に確認する
- 技能レベルを実技テストなどで確認する
- 日本語でのコミュニケーション能力を面接で確認する
- 在留資格の残り期間を確認する
- CCUS登録状況と就業履歴を確認する
転職者の採用にはリスクも伴います。前職でトラブルを起こして退職した人材や、短期間で転職を繰り返している人材には注意が必要です。面接では、退職理由だけでなく、長期的なキャリアプランについても確認し、自社で長く働く意欲があるかどうかを見極めてください。
また、転職に伴い所属機関(雇用先)が変わる場合は、14日以内に届出を行う義務があります。届出を怠ると在留資格の取消し事由となる可能性があるため、手続きを漏れなく行うことが重要です。
特定技能外国人の採用・雇用にかかる費用|ルート別の内訳
特定技能外国人の採用・雇用には、さまざまな費用が発生します。採用ルートによって初期費用が大きく異なるほか、毎月のランニングコストも考慮する必要があります。
ここでは、採用ルート別の費用内訳と、年間のトータルコストについて解説します。採用を検討する際の予算策定の参考にしてください。
初期費用の比較|技能実習移行・海外採用・国内中途の3ルート別
採用ルートによって初期費用は大きく異なり、技能実習からの移行が最も低コスト、海外からの新規採用が最も高コストとなる傾向があります。
初期費用の主な内訳は以下のとおりです。
| 費用項目 | 技能実習移行 | 海外採用 | 国内中途 |
|---|---|---|---|
| 人材紹介手数料 | 0円 | 30〜60万円 | 30〜60万円 |
| 送り出し機関費用 | 0円 | 10〜20万円 | 0円 |
| 渡航費・ビザ申請費用 | 0円 | 10〜15万円 | 0円 |
| 在留資格申請費用 | 5〜10万円 | 5〜10万円 | 5〜10万円 |
| 受入計画認定費用 | 5〜10万円 | 5〜10万円 | 5〜10万円 |
| 合計目安 | 10〜20万円 | 60〜115万円 | 40〜80万円 |
技能実習からの移行の場合、自社の技能実習生を継続雇用するため、人材紹介手数料や送り出し機関への費用は発生しません。在留資格変更と受入計画認定の手続き費用のみで済むため、最も経済的な採用方法といえます。
一方、海外から新規に採用する場合は、人材紹介手数料、送り出し機関への費用、渡航費用などが発生し、初期費用が高額になります。ただし、人材を確保できないリスクを考慮すると、投資として妥当な金額といえるケースも多いです。
月次ランニングコストの内訳|給与・支援費・JAC会費・その他経費
特定技能外国人を雇用すると、給与以外にも毎月発生するランニングコストがあります。特に建設分野では、JACへの会費や負担金が必要となる点に注意が必要です。
月次ランニングコストの主な内訳は以下のとおりです。
- 給与:日本人と同等以上(地域の最低賃金以上、同等の技能を持つ日本人と同水準)
- 社会保険料:給与の約15%(事業主負担分)
- 支援委託費:2〜3万円/月(登録支援機関に委託する場合)
- JAC会費・負担金:賛助会員の場合、年会費24万円(固定)+受入負担金(月額1.25万円/人)
- 住居費支援:企業負担の場合、3〜5万円/月
給与については、特定技能外国人を日本人より低い賃金で雇用することは認められていません。同等の技能を持つ日本人と同等以上の報酬を支払う必要があります。なお、国土交通省の告示に基づき、「月給制」での支払いが必須条件となります。天候による現場中止などで手取り額が変動する「日給制」や「時給制」での雇用契約は、月払いであっても建設特定技能受入計画の認定が下りないため、十分注意してください。
JACへの加入は建設分野で特定技能外国人を受け入れるための必須要件です。会費体系は正会員と賛助会員で異なり、受け入れ人数に応じた負担金も発生します。詳細な金額はJACの公式情報を確認してください。
1年間のトータルコスト試算|採用ルート別の総額比較
1年間のトータルコストを比較すると、採用ルートによる差は初期費用ほど大きくはありません。月次のランニングコストはどのルートでも同程度となるためです。
以下は、月給25万円の特定技能外国人を1名採用した場合の年間コスト試算例です。
| 費用項目 | 技能実習移行 | 海外採用 | 国内中途 |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 15万円 | 90万円 | 60万円 |
| 年間給与 | 300万円 | 300万円 | 300万円 |
| 社会保険料(事業主負担) | 45万円 | 45万円 | 45万円 |
| 支援委託費(年間) | 30万円 | 30万円 | 30万円 |
| JAC会費・負担金(按分) | 39万円 | 39万円 | 39万円 |
| 1年間合計 | 約435万円 | 約510万円 | 約480万円 |
※上記は目安であり、地域や企業の状況によって異なります。
この試算からわかるように、採用ルートによる年間コストの差は初期費用の差とほぼ同等です。2年目以降は初期費用が発生しないため、どのルートでもランニングコストはほぼ同じになります。
コストだけでなく、人材の質や定着率、採用までにかかる時間なども総合的に考慮して、最適な採用ルートを選択することが重要です。
建設業で必須の3要件|JAC加入・CCUS登録・受入計画認定
建設分野で特定技能外国人を受け入れるためには、他の分野にはない独自の要件を満たす必要があります。具体的には、JAC(建設技能人材機構)への加入、CCUS(建設キャリアアップシステム)への登録、そして国土交通省による建設特定技能受入計画の認定の3つです。
これらの要件は、建設業界の特性を踏まえて設けられたものであり、いずれか一つでも欠けていると受け入れができません。ここでは、各要件の詳細と対応方法について解説します。
JAC(建設技能人材機構)への加入とCCUS登録・運用の必須ルール
JAC(一般社団法人建設技能人材機構)への加入は、建設分野で特定技能外国人を受け入れるすべての企業に義務づけられています。JACは、建設分野における特定技能外国人の適正かつ円滑な受け入れを実現するために設立された機関です。
JACの主な役割は以下のとおりです。
- 特定技能評価試験の実施
- 海外における人材育成・募集活動
- 受け入れ企業に対する巡回指導
- 外国人からの相談対応
- 転職支援
JAC加入には正会員と賛助会員の2種類があり、それぞれ会費体系が異なります。受け入れを予定している企業は、早めに加入手続きを済ませておくことをお勧めします。
CCUSへの登録も必須要件です。CCUSは、技能者の資格や就業履歴を業界全体で蓄積・活用する仕組みであり、特定技能外国人もこのシステムに登録する必要があります。
| 要件 | 内容 | 対応時期 |
|---|---|---|
| JAC加入 | 正会員または賛助会員として加入 | 受入計画認定申請前まで |
| 事業者CCUS登録 | 受け入れ企業をCCUSに登録 | 受入計画認定申請前まで |
| 技能者CCUS登録 | 特定技能外国人をCCUSに登録 | 就労開始後速やかに |
| 就業履歴蓄積 | 現場入退場をCCUSで記録 | 継続的に実施 |
CCUSの運用では、現場入退場時にICカードをかざして就業履歴を蓄積することが求められます。この就業履歴は、技能者のキャリア形成に活用されるとともに、特定技能2号への移行時の実務経験証明にも役立ちます。
国土交通省による「建設特定技能受入計画」の認定プロセスと重要性
建設特定技能受入計画の認定は、建設分野で特定技能外国人を受け入れる際に必ず取得しなければならない認定です。この認定を取得せずに入管への在留資格申請を行うことはできません。
受入計画には、以下の内容を記載する必要があります。
- 受け入れる特定技能外国人の氏名、国籍、生年月日
- 受け入れ企業の情報(建設業許可、JAC加入、CCUS登録状況など)
- 報酬の額と日本人との比較
- 業務内容と従事させる場所
- 安全衛生教育の実施計画
- 技能習得計画
審査では、報酬が日本人と同等以上であることが特に重視されます。同等の技能・経験を持つ日本人従業員がいる場合は、その従業員と同水準以上の報酬を設定する必要があります。
認定申請から認定取得までの標準的な期間は1〜2か月程度です。書類に不備がある場合は追加資料の提出を求められ、さらに時間がかかることがあります。審査をスムーズに通過するためには、以下の点に注意してください。
- 報酬設定の根拠を明確に示す(賃金台帳、就業規則など)
- 昇給規定を整備し、長期的なキャリアパスを示す
- CCUS登録が完了していることを確認する
- 建設業許可の有効期限を確認する
受入計画が認定されると、認定証が交付されます。この認定証は入管への在留資格申請時に添付する必要があるため、大切に保管してください。
受け入れ企業の義務:特定技能外国人への支援と登録支援機関
特定技能1号外国人を受け入れる企業には、外国人が日本で安定して働き、生活できるよう支援する義務があります。この支援は「義務的支援」と呼ばれ、法令で定められた10項目の支援を実施する必要があります。
ここでは、義務的支援の具体的な内容と、支援業務を外部に委託する場合の登録支援機関の活用方法について解説します。
企業が実施すべき「10項目の義務的支援」の具体的な内容
特定技能1号外国人に対する義務的支援は、入国前から帰国時まで、外国人の日本での生活全般をサポートする内容となっています。
10項目の義務的支援の内容は以下のとおりです。
| 支援項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 1. 事前ガイダンス | 雇用契約の内容、入国手続き、日本での生活に関する情報提供 |
| 2. 出入国時の送迎 | 空港等への出迎え・見送り |
| 3. 住居確保・生活に必要な契約支援 | 住居の確保、銀行口座開設、携帯電話契約等の支援 |
| 4. 生活オリエンテーション | 日本のルール・マナー、公共機関の利用方法等の説明 |
| 5. 公的手続きへの同行 | 市区町村での届出、社会保障手続き等への同行 |
| 6. 日本語学習機会の提供 | 日本語教室の情報提供、学習教材の提供等 |
| 7. 相談・苦情への対応 | 職場や生活上の相談対応、適切な機関への取り次ぎ |
| 8. 日本人との交流促進 | 地域行事への参加機会提供、交流の場の情報提供 |
| 9. 転職支援 | 受け入れ企業の都合による雇用契約解除時の転職支援 |
| 10. 定期的な面談・報告 | 3か月に1回以上の面談、出入国在留管理庁への報告 |
これらの支援は、外国人が理解できる言語で実施する必要があります。つまり、日本語が十分でない外国人に対しては、母国語または理解可能な言語で対応できる体制を整える必要があります。
支援の実施状況は、定期的に出入国在留管理庁へ報告する義務があります。2024年以降、この報告事務は年1回に簡素化されましたが、日常的な支援の記録は適切に保管しておく必要があります。
登録支援機関へ委託するメリットと自社支援の判断基準
義務的支援は、すべてを自社で実施する方法と、登録支援機関に委託する方法の2つから選択できます。どちらを選ぶかは、企業の体制やコスト、受け入れ人数などを考慮して判断します。
登録支援機関に委託するメリットは以下のとおりです。
- 外国語対応の体制を自社で整備する必要がない
- 支援業務のノウハウを持った専門家に任せられる
- 担当者の負担が軽減される
- 多言語での相談対応が可能
一方、自社で支援を実施するメリットもあります。
- 委託費用を削減できる
- 外国人との直接的なコミュニケーションが増え、信頼関係を構築しやすい
- 外国人の状況をリアルタイムで把握できる
自社支援を選択できる条件として、以下の要件を満たす必要があります。
- 過去2年間に外国人を適正に雇用した実績がある
- 支援責任者および支援担当者を選任できる
- 外国人が理解できる言語で支援を実施できる体制がある
- 支援の中立性を確保できる(支援担当者が外国人の直接の上司でないなど)
これらの要件を満たせない場合は、登録支援機関への委託が必須となります。初めて特定技能外国人を受け入れる企業の多くは、登録支援機関を活用しています。
受け入れの申請手続き|必要書類とよくある失敗例
特定技能外国人の受け入れには、複数の申請手続きが必要です。建設分野では、国土交通省への受入計画認定申請と、出入国在留管理庁への在留資格申請の両方を行う必要があり、手続きが複雑になりがちです。
ここでは、申請手続きの標準的なスケジュールと、審査で指摘されやすいポイントについて解説します。手続きの遅延やトラブルを防ぐために、事前にしっかり確認しておきましょう。
申請から雇用開始までの標準スケジュール|標準処理期間
特定技能外国人の採用を決定してから実際に雇用を開始するまでには、通常3〜4か月程度の期間が必要です。海外から呼び寄せる場合は、さらに1〜2か月程度多くかかる場合があります。
標準的なスケジュールは以下のとおりです。
| 時期 | 手続き内容 | 担当機関 |
|---|---|---|
| 採用決定 | 雇用契約締結、支援計画策定 | 企業 |
| 1〜2週間後 | 建設特定技能受入計画認定申請 | 国土交通省 |
| 1〜2か月後 | 受入計画認定取得 | 国土交通省 |
| 認定後すぐ | 在留資格申請(変更または認定証明書交付) | 出入国在留管理庁 |
| 1〜2か月後 | 在留資格取得(または認定証明書交付) | 出入国在留管理庁 |
| 許可後 | 就労開始(海外からの場合はビザ取得・入国後) | 企業 |
出入国在留管理庁における標準処理期間は、在留資格変更の場合で約1〜2か月、在留資格認定証明書交付の場合で約1〜3か月とされています。ただし、申請内容や時期によってはさらに時間がかかることもあります。
特に繁忙期(年度末・年度初め)は審査が混み合うため、余裕を持ったスケジュールで申請することをお勧めします。
審査で差し戻される典型的なミス|報酬設定・昇給規定・CCUS不備
建設特定技能受入計画の審査では、報酬設定と昇給規定、CCUS登録状況が特に厳しくチェックされます。これらの点で不備があると、申請が差し戻され、受け入れが大幅に遅れる原因となります。
審査で指摘されやすい典型的なミスは以下のとおりです。
- 報酬が日本人と同等以上であることの根拠が不十分
- 「月給制」が徹底されていない(日給制・時給制での雇用契約は、月払いであっても認定不可)
- 昇給規定が整備されていない、または形骸化している
- CCUS事業者登録が完了していない
- 建設業許可の有効期限が切れている、または更新手続き中
- JAC加入手続きが完了していない
- 支援計画の内容が不十分
報酬設定については、「同等の経験を持つ日本人従業員と同水準以上」であることを具体的に示す必要があります。賃金台帳や就業規則を添付し、比較対象となる日本人従業員の給与水準を明示することが求められます。
昇給規定については、単に「昇給あり」と記載するだけでは不十分です。どのような基準で昇給するのか、具体的な昇給額や昇給率などを就業規則や賃金規程に定めておく必要があります。
CCUS登録については、申請時点で事業者登録が完了していることが必要です。技能者(外国人本人)の登録は就労開始後でも構いませんが、事業者登録は事前に済ませておいてください。
これらのミスを防ぐためには、申請前にチェックリストを作成し、必要な準備がすべて整っているかを確認することが効果的です。初めて申請する場合は、行政書士や登録支援機関に相談することも検討してください。
まとめ
建設業における特定技能外国人の受け入れは、人手不足を解消するための有効な手段です。しかし、他の業種にはない独自の要件があり、JAC加入、CCUS登録、建設特定技能受入計画の認定という3つの必須要件を満たす必要があります。
採用方法は、技能実習からの移行、海外からの新規採用、国内転職者の採用の3つがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。自社の状況に応じて最適な方法を選択し、計画的に採用を進めることが重要です。費用については、初期費用だけでなく、月々のランニングコストも考慮した予算策定が必要です。
制度は年々改善されており、報告事務の簡素化や業務範囲の柔軟化など、企業にとって使いやすい仕組みへと変化しています。2027年には育成就労制度も開始される予定であり、外国人材の長期的なキャリア形成がより一層促進されると期待されています。本記事を参考に、特定技能外国人の受け入れを検討してみてはいかがでしょうか。
