近年、教育現場で注目を集めている「ウェルビーイング教育」。しかし、その概念や必要性についてまだ十分に理解されていない面もあります。ウェルビーイング教育とは一体どのようなものなのでしょうか？子どもたちの幸福度や生活の質にどのような影響を与えるのでしょうか？本記事では、ウェルビーイング教育の定義や目的、世界と日本の動向、家庭でできるサポートなどについて詳しく解説します。従来の知識偏重の教育観を転換し、子どもたち一人ひとりの「今」と「未来」の幸せを育むために、私たち大人に何ができるのかを一緒に考えていきましょう。
ウェルビーイング教育とは何か？その定義と目的
近年、教育分野で注目を集めている「ウェルビーイング教育」。これは一体どのような概念なのでしょうか？ここでは、ウェルビーイング教育の定義や目的、日本の教育政策における位置づけなどを詳しく解説します。
ウェルビーイングの定義と概念
ウェルビーイングとは、
「幸福で充実した人生を送るための心理的、認知的、社会的、身体的な働きと潜在能力」
を意味します。つまり、単なる経済的豊かさだけでなく、人生の質や満足度、生きがいなどを含む包括的な概念です。
ウェルビーイングは個人だけでなく、社会全体の幸福度や健康度を表す指標としても用いられます。近年、教育分野においても、子どもたちの心身の健康や生活の質を重視する動きが強まっています。
OECDが提唱するウェルビーイング教育の目的
経済協力開発機構（OECD）は、
教育の目的を「個人と社会のウェルビーイングの実現」と位置づけています。
つまり、知識・技能の習得だけでなく、心身ともに健康で、自分らしく生きていける子どもを育てることが教育の役割だと考えているのです。
OECDは、ウェルビーイング教育の重要性を各国に訴えるとともに、国際的な学力調査「PISA」においても、子どもたちの幸福度や生活満足度を測定する質問を盛り込んでいます。
日本の教育政策におけるウェルビーイングの位置づけ
日本でも近年、
ウェルビーイングを重視する教育政策が打ち出されています。
2021年に策定された「第4期教育振興基本計画」では、「ウェルビーイングの向上」が柱の一つに掲げられました。
具体的には、学校教育において子どもたちの心身の健康を守り、自己肯定感や社会性を育むことが目標とされています。また、不登校や虐待、貧困などの課題にも積極的に取り組み、すべての子どもたちが安心して学べる環境づくりを進めることが求められています。
ウェルビーイング教育が目指す子どもの姿
では、ウェルビーイング教育によって、どのような子どもを育てようとしているのでしょうか。以下のような資質・能力を備えた子どもの姿が想定されています。
- 自分の感情を適切に表現し、他者の気持ちを理解できる
- 自分の良さを認識し、自信を持って行動できる
- 人間関係を築き、社会に参画する力を身につけている
- 心身ともに健康で、バランスの取れた生活を送れる
このような子どもを育成するためには、学校だけでなく、家庭や地域社会も一体となって取り組む必要があります。ウェルビーイング教育は、
子どもたちの「今」と「未来」の幸せを支える新しい学びの形
と言えるでしょう。
なぜ今ウェルビーイング教育が注目されているのか？
近年、教育分野で「ウェルビーイング教育」という言葉が頻繁に使われるようになりました。それには、以下のような背景があります。
経済成長だけでは測れない幸福感の重要性
従来、社会の豊かさは主に経済成長率や一人当たりGDPなどの指標で測られてきました。しかし、
物質的な豊かさだけでは人々の幸福感は必ずしも高まらないという認識が広まってきました。
そこで注目されるようになったのが、個人の主観的な幸福感や生活の質を重視する「ウェルビーイング」の概念です。
教育の分野でも、子どもたちの心身の健康やQOL（Quality of Life）を大切にする動きが活発化しています。知識の詰め込みよりも、一人ひとりの個性や感情を尊重し、自己肯定感を育むことが重視されるようになってきたのです。
コロナ禍における子どもの心身の健康への懸念
新型コロナウイルスの感染拡大は、子どもたちの生活にも大きな影響を及ぼしました。外出自粛やオンライン授業の長期化により、友人と会えない、運動不足になるなどのストレスを抱える子どもが増加。
不登校やメンタルヘルスの問題が深刻化しています。
このような状況を受けて、改めて子どもたちの心と体の健康を守ることの大切さが認識されるようになりました。ウェルビーイング教育への関心が高まっているのは、コロナ禍において子どもたちのケアがより一層求められているからだと言えます。
第4期教育振興基本計画におけるウェルビーイングの位置づけ
2021年に策定された「第4期教育振興基本計画」では、
「ウェルビーイングの向上」が教育政策の柱の一つに掲げられました。
具体的には、以下のような取り組みが示されています。
- 学校教育において子どもたちの心身の健康を守る
- 自己肯定感や社会性を育む教育を推進する
- 不登校や虐待、貧困などの課題に積極的に取り組む
- すべての子どもが安心して学べる環境づくりを進める
文部科学省がウェルビーイングを重要施策に位置づけたことで、各学校現場でもウェルビーイング教育への関心が一気に高まっています。
世界的なウェルビーイング教育への関心の高まり
ウェルビーイング教育への注目は、日本だけでなく世界的な潮流となっています。経済協力開発機構（OECD）は、
「教育の目的は個人と社会のウェルビーイングの実現にある」
と提唱。国際的な学力調査「PISA」でも、子どもたちの幸福度や生活満足度に関する調査を行っています。
また、国連の「持続可能な開発目標（SDGs）」においても、「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」といった目標が掲げられており、ウェルビーイングの理念と軌を一にしています。
このように、
ウェルビーイング教育は、グローバルな教育課題の解決に向けた取り組みとして注目を集めているのです。
日本の子どものウェルビーイング状況とPISAの調査結果
OECDが実施する国際学習到達度調査（PISA）では、近年、子どもたちのウェルビーイングに関する調査も行われています。ここでは、PISAの調査結果から見える日本の子どものウェルビーイング状況について詳しく見ていきましょう。
PISAが測定する子どものウェルビーイングの指標
PISAでは、子どものウェルビーイングを測定するために、以下のような指標を用いています。
- 学校生活の質（学校への所属感、教師との関係性など）
- いじめの経験
- 学習に対する意欲や態度
- 人生への満足度
- 心身の健康状態
これらの指標から、各国の子どもたちがどの程度幸福で充実した学校生活を送っているのかを総合的に評価しています。
日本の子どもの学校への所属感の高さ
PISAの調査結果によると、
日本の15歳の子どもたちは、学校への所属感が非常に高いことが分かっています。
「学校にいるときは、他の生徒といることが楽しい」「学校は居心地がよい」といった質問に肯定的に答える割合が、参加国中でもトップクラスとなっています。
これは、日本の学校教育が子どもたちの人間関係づくりを大切にしていることの表れと言えるでしょう。学校行事や部活動など、仲間と協力する機会が多いことも、所属感の高さにつながっていると考えられます。
2022年のPISA調査における日本の順位と課題
2022年に行われた最新のPISA調査では、
日本は子どものウェルビーイングランキングで参加70余か国中6位という高い結果を残しました。
学校への適応感や友人関係の良好さなどが評価された一方で、学習意欲の低下や心身の不調を訴える子どもの増加といった課題も浮き彫りになりました。
コロナ禍による生活の変化が、子どもたちのメンタルヘルスに影響を及ぼしている可能性があります。学習面だけでなく、心の健康にも目を配った支援が求められています。
他国との比較から見える日本のウェルビーイング教育の現状
PISAの調査から、日本の子どものウェルビーイングは総じて高水準にあることが分かります。しかし、他国と比較すると、以下のような特徴や課題が見えてきます。
- 学校外での学びや体験活動の機会が少ない
- 自己肯定感や自己効力感が低い傾向にある
- 将来への不安を抱えている子どもが多い
これらの課題を解決するためには、
学校内外で子どもたちが自分らしく活躍できる場を増やすことが重要です。
また、一人ひとりの個性を認め合い、支え合える関係性を築くことも欠かせません。
日本のウェルビーイング教育は、国際的に見ても高い水準にありますが、さらなる充実が求められています。子どもたちの幸せを第一に考え、広い視野を持って取り組んでいくことが肝要だと言えるでしょう。
家庭でできるウェルビーイング教育のサポート
ウェルビーイング教育を実践するためには、学校だけでなく家庭の協力も欠かせません。ここでは、家庭でできるウェルビーイング教育のサポートについて詳しく見ていきましょう。
子どもが夢中になれる自由な時間と空間の提供
ウェルビーイング教育では、
子どもたちが自分の興味や関心に基づいて自由に活動できる時間と空間を確保することが大切です。
勉強だけでなく、遊びや趣味、スポーツなど、好きなことに打ち込める環境を整えることで、子どもたちは自己表現力や創造性を伸ばしていくことができるでしょう。
家庭では、子どもの好奇心を育むためにも、できるだけ自由な時間を設けるようにしたいものです。また、子ども部屋やリビングなど、子どもが安心してくつろげる居場所づくりも大切ですね。
失敗を恐れない思考と試行錯誤の機会の大切さ
ウェルビーイングを高めるためには、
子どもたちが失敗を恐れずにチャレンジできる環境づくりが欠かせません。
時には思うようにいかないこともあるかもしれませんが、そこから学び成長するプロセスこそが重要なのです。
家庭では、子どもが自分で考え、試行錯誤する機会を積極的に設けるようにしましょう。例えば、日常の家事や問題解決の場面で、子ども自身に考えさせ、時にはアドバイスをするなどの関わり方が効果的です。失敗しても大丈夫だと伝え、子どもの挑戦を応援する姿勢が大切ですね。
子どもの興味関心に寄り添う親の姿勢
ウェルビーイング教育を支えるためには、
親が子どもの興味関心に寄り添い、一人ひとりの個性を尊重する姿勢が何より重要です。
子どもの話に耳を傾け、その子らしさを認めることで、子どもは自己肯定感を育んでいきます。
子どもの興味や得意なことを一緒に見つけ、それを伸ばしていけるよう支援しましょう。時には子どもの意見と食い違うこともあるかもしれませんが、子どもの気持ちを受け止めながら、対話を重ねていくことが大切です。
家族との信頼関係がウェルビーイングの基盤に
子どものウェルビーイングを支える土台となるのは、何より家族との信頼関係です。
温かく安心できる家庭環境があってこそ、子どもは自分らしく生き生きと成長していけるのです。
日頃から家族でよく話し合い、互いの思いを共有し合うことを心がけましょう。時には衝突することもあるかもしれませんが、そこから理解を深め合える関係性を築いていくことが何より大切ですね。子育ての悩みを一人で抱え込まず、家族みんなで子どもの幸せを願い、支え合っていきたいものです。
ウェルビーイング教育の実現には、学校と家庭の両輪が欠かせません。家庭でできることを一つずつ実践しながら、子どもたちの健やかな成長を見守っていきましょう。
ウェルビーイングの土台は、日々の何気ない関わりの中で作られていくのです。
まとめ
ウェルビーイング教育は、子どもたちの心と体の健康を育む新しい学びの形です。知識や技能の習得だけでなく、一人ひとりの幸福感や生きる力を大切にします。子どもたちが自分らしく生き生きと過ごせるよう、学校と家庭が連携して取り組むことが求められています。従来の教育観を転換し、「今」を充実させることこそが、よりよい未来につながるのです。ウェルビーイング教育の実現には課題も多いですが、社会全体で子どもたちの幸せを願い、支えていくことが何より大切ですね。
参考文献
