外資系法律事務所は、国際的な法律案件を中心に扱う法律事務所です。高度な英語力と専門性を武器に、グローバルな舞台で活躍する弁護士を多く輩出しています。
しかし、その一方で、国内クライアントの開拓が難しい、パートナーへの昇進ハードルが高いなどの課題もあります。外資系法律事務所への就職や転職を考える際は、メリットとデメリットを十分に理解し、自身のキャリアビジョンと照らし合わせることが大切です。
本記事では、外資系法律事務所の特徴や業務内容、働き方、就職・転職のポイントなどについて詳しく解説します。憧れの外資系法律事務所で働くために必要な知識や心構えを、ぜひ参考にしてください。
外資系法律事務所とは
外資系法律事務所について理解を深めるために、まずはその定義や特徴について見ていきましょう。また、日系法律事務所との主な違いや、日本における主要な外資系法律事務所についても確認します。
外資系法律事務所の定義
外資系法律事務所とは、外国の法律事務所の傘下または提携関係にある法律事務所を指します。海外に拠点を持つ事務所の日本支部や、海外の事務所と提携した国内の法律事務所(共同事業を含む)も、外資系法律事務所に分類されます。
外資系法律事務所の特徴
外資系法律事務所の最大の特徴は、主に国際的な法律の案件を扱うことです。国際系の企業法務案件が中心となるため、案件数は限られており、求人枠も少ない傾向にあります。
また、外資系法律事務所は必ずしも外国の法律事務所と資本関係があるわけではありません。2003年の外弁法改正以降、外資系法律事務所の数は急増しています。
日系法律事務所との主な違い
外資系法律事務所と日系法律事務所には、いくつかの主な違いがあります。これらを比較することで、外資系法律事務所の特性をより深く理解することができるでしょう。
比較項目 | 外資系法律事務所 | 日系法律事務所 |
---|---|---|
クライアント構成 | 外国の大手企業の比率が高い | 国内外の大手企業が中心 |
適用法律 | 案件に応じて各国の法律を適用 | 主に日本の法律に基づく |
使用言語 | 英語が共通語(クライアントとの対応、所内コミュニケーション) | 主に日本語 |
年収水準 | 初任給で年収1,000万円以上が一般的 | 外資系よりやや低い傾向 |
働き方 | 比較的早く退勤可能(20~23時) | 深夜1時~2時まで働くことも多い |
評価システム | より実力主義的 | 年功序列の要素も残る |
個人受任 | 厳しく制限される傾向 | 比較的柔軟 |
主要な外資系法律事務所(日本)
日本において活躍している主要な外資系法律事務所には、以下のような事務所があります。
- ベーカー&マッケンジー法律事務所
- モリソンフォースター外国法事務弁護士事務所
- クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
- ポールヘイスティングス法律事務所
- スクワイヤ外国法共同事業法律事務所
外資系法律事務所の業務内容
外資系法律事務所の業務内容について見ていきましょう。外資系法律事務所は、日系法律事務所とは異なる特徴を持っています。
主な取り扱い案件
外資系法律事務所では、主に国際的な法律の案件を取り扱います。具体的には、クロスボーダーのM&A(合併・買収)、国際的な契約書の作成・レビュー、海外進出に伴う各種法的支援などが挙げられます。
外国の大手企業を主要なクライアントとしているため、企業法務に関する案件が中心となります。日本国内の案件よりも、国際的な案件の比重が高いのが特徴です。
業務で使用する言語
外資系法律事務所では、英語が共通語として使用されます。クライアントとの対応はもちろん、所内のコミュニケーションにおいても英語が主に用いられるのです。
高度な法律英語の運用能力が求められるため、入社後はリーガルレベルの議論ができるまで上達することが必要不可欠です。
外国法の適用
外資系法律事務所では、案件に応じて各国の法律を適用します。日本法だけでなく、アメリカ法、イギリス法、ヨーロッパ各国の法律など、多様な法体系に基づいて業務を行うことになります。
このため、日本の法律のみならず、外国法についても深い知識と理解が求められます。世界の法律事情に精通している必要があるのです。
外資系法律事務所の働き方
外資系法律事務所における働き方は、日系法律事務所とは異なる特徴があります。
勤務時間と残業
外資系法律事務所の勤務時間は、比較的早く退勤できることが特徴です。多くの場合、20時から23時頃には退社が可能であり、日系法律事務所のように深夜1時から2時まで働くことは少ないでしょう。
ただし、案件の内容や進捗状況によっては、残業が発生することもあります。国際的な案件を扱う外資系法律事務所では、クライアントとのやり取りや海外オフィスとの調整などで、時差の影響を受けることがあるためです。
評価システムと昇進
外資系法律事務所の評価システムは、実力主義的な傾向が強いのが特徴です。個人の能力や成果が重視され、年次よりも実績が評価の基準となります。そのため、若手でも優秀な人材は早期に昇進するチャンスがあります。
一方で、昇進の基準は厳しく、パートナーになるためには高い専門性と実績が求められます。日系法律事務所と比べると、年功序列の要素は薄く、実力次第で昇進のスピードが大きく異なることもあります。
年収水準と日系法律事務所との比較
外資系法律事務所の年収水準は、日系法律事務所と比べて高い傾向にあります。初任給で年収1,000万円以上が一般的であり、経験を積むにつれて年収は上昇していきます。以下の表は、外資系法律事務所と日系5大法律事務所の年収比較です。
年次 | 外資系法律事務所 | 日系5大法律事務所 |
---|---|---|
1年目 | 1,100万円~1,500万円 | 1,000万円~1,200万円 |
3年目 | 1,200万円~1,700万円 | 1,300万円~1,500万円 |
5年目 | 1,500万円~2,000万円 | 1,500万円~2,000万円 |
日系5大法律事務所は日系法律事務所の中でもトップクラスの給与水準なので、外資系法律事務所の若手の年収が高いことがうかがえます。ただし、外資系法律事務所の年収は個人の実績によって大きく異なります。高い専門性と語学力を持ち、優秀な成果を上げる弁護士は、さらに高い年収を得ることができるでしょう。
個人受任の制限
外資系法律事務所では、個人受任が厳しく制限される傾向にあります。事務所の方針として、弁護士個人がクライアントを受け持つことを認めていないケースが多いのです。これは、事務所全体でクライアントに対応することで、サービスの質を維持し、利益相反を防ぐためです。
そのため、外資系法律事務所で働く弁護士は、事務所から割り当てられた案件に専念することが求められます。個人的なつながりでクライアントを獲得することは難しく、国内クライアントの開拓が制限される可能性があります。
外資系法律事務所への就職・転職
外資系法律事務所への就職・転職を目指す際には、いくつかの重要なポイントがあります。
求められる英語力とスキル
外資系法律事務所で働くためには、高い英語力が不可欠です。
一般的に、TOEIC900点以上、TOEFL100点以上の英語力が求められます。加えて、留学経験者や帰国子女も歓迎される傾向にあります。入社後は、リーガルレベルの議論ができるまで英語力をさらに上達させる必要があるでしょう。
英語力以外にも、コミュニケーション能力、専門性、関連分野での実務経験などが重視されます。特に、年次が長くなるほど専門性が問われるようになります。大手企業クライアントとの対応経験も、転職の際には有利に働くでしょう。
新卒採用の条件
新卒で外資系法律事務所に就職する際には、いくつかの条件があります。
まず、コミュニケーション能力と人柄が重視されます。加えて、英語力、学歴やロースクールでの成績、司法試験の成績などが採用の判断材料となります。
外資系法律事務所は、仕事にフルコミットできる人、英語が得意な人、クロスボーダーのM&Aに興味がある人、将来的に企業法務部での勤務を考えている人に向いていると言えるでしょう。
中途採用(転職)の条件
中途採用(転職)の場合、新卒採用とは異なる条件が求められます。
何よりも、高度な英語力が必須です。加えて、関連分野での実務経験、専門性、大手企業クライアント対応経験などが重要視されます。特に、年次が長くなるほど専門性が問われるようになります。
転職の際は、転職内容と退職理由の整合性も重要なポイントです。面接官は、あなたの転職理由とキャリアビジョンを詳しく聞くでしょう。論理的かつ誠実に答えることが求められます。
面接で評価されるポイント
外資系法律事務所の面接では、いくつかのポイントが評価されます。
まず、論理性や頭の切れ、誠実さが重視されます。加えて、転職内容と退職理由の整合性、将来のキャリアビジョン、希望する業務内容なども詳しく聞かれるでしょう。
2次面接では会食が行われることが多く、そこでは人柄や品格が評価されます。外資系法律事務所は、高い専門性と英語力を持ち、かつ人柄も優れた人材を求めているのです。
以上が、外資系法律事務所への就職・転職のポイントです。高い英語力とスキル、そして優れた人柄を身につけることが、外資系法律事務所で活躍するための鍵となるでしょう。
外資系法律事務所のキャリアの注意点
外資系法律事務所で働くことは、国際的な法律案件に携われるなど多くのメリットがありますが、一方でデメリットや注意点もいくつか存在します。ここでは、外資系法律事務所で働く際に留意すべき点について詳しく解説します。
国内クライアントの開拓の難しさ
外資系法律事務所の主なクライアントは、外国企業や海外進出を目指す日本企業であるため、国内のクライアントを開拓することが比較的難しいという側面があります。
国内企業の多くは、日本の法律や商習慣に精通した日系法律事務所を好む傾向にあります。そのため、外資系法律事務所に所属する弁護士が、国内企業との関係を構築し、新規クライアントを獲得するためには、日本の法律や商習慣への深い理解と、高度なコミュニケーション能力が求められます。
パートナー昇進の難易度
外資系法律事務所では、パートナーへの昇進がより難しいと言われています。
外資系法律事務所のパートナー昇進基準は、日系事務所と比べてより厳格で、実力主義的な傾向があります。単に在籍年数を重ねるだけでは不十分で、高度な専門性と豊富な実務経験、優れた語学力、そして新規クライアントの獲得力が求められます。
さらに、外資系法律事務所のパートナー枠は限られているため、昇進のチャンスも少なくなります。パートナーを目指す弁護士は、常に高いモチベーションを持ち、自己研鑽に励む必要があるでしょう。
キャリアパスの限定
外資系法律事務所で働く弁護士のキャリアパスは、ある程度限定的であると言えます。
外資系法律事務所では、主に国際的な企業法務案件を扱うため、国内法に特化した案件に携わる機会が少なくなります。そのため、将来的に日系法律事務所への移籍や、国内企業の法務部への転職を考える場合、キャリアの選択肢が狭まる可能性があります。
また、外資系法律事務所の業務は英語を使用するため、日本語での法律実務経験が積みにくいというデメリットもあります。キャリアの選択肢を広げるためには、外資系法律事務所での経験に加え、日本国内の法律や商習慣に関する知識を深めておくことが重要です。
まとめ
外資系法律事務所は、国際的な法律案件を中心に扱う事務所です。高度な英語力と専門性を武器に、グローバルな舞台で活躍する弁護士を多く輩出しています。日系法律事務所とは異なり、外国企業を主要クライアントとして、各国の法律を適用した業務を行うのが特徴です。
外資系法律事務所で働くメリットは、専門的スキルの習得、英語力の向上、グローバルな法律知識の獲得、そしてワークライフバランスと高収入の実現などが挙げられます。一方で、国内クライアントの開拓が難しい、パートナー昇進のハードルが高いといったデメリットもあります。
外資系法律事務所への就職や転職を目指す際は、高い英語力とスキル、優れた人柄が求められます。憧れの外資系法律事務所で働くためには、これらの条件を満たし、論理的思考力と誠実さを兼ね備えることが重要です。キャリアビジョンを明確に持ち、自己研鑽を怠らない姿勢も欠かせません。