介護記録を手書きする必要性とは|人手不足の解決につながる本質的な考え方

そこで本記事では、介護業界の人手不足の背景と原因を掘り下げ、その上でより長期的な視点から「ITツール導入」を含む多角的な解決策を提示します。また、既存の数値データや社会構造の変化を踏まえた上で、今後ますます深刻化する労働力不足に対処するための具体的な戦略にも言及します。

目次

介護職員数と必要数から見る人手不足の実態

介護人材の不足はデータからも明白です。厚生労働省や関連機関が公表している数値を元に見ると、すでに不足が顕在化していることがわかります。

介護職員の現状と将来需要

2019年度の介護職員数は約211万人でしたが、2023年度には約233万人が必要とされ、年間で5.5万人規模の増員が求められる見通しです。さらに2025年度には約243万人必要となり、年間5.3万人増を確保しなければなりません。2040年度には約280万人まで必要数が拡大し、そこに至るまでの年間増加数は3.3万人と少し緩やかになるものの、絶対的な需要数は増え続けることが予測されています。

不足見込みはさらに深刻です。2019年度を基準とした場合、2023年度にはすでに約22万人、2025年度には約32万人もの人材が不足すると試算されています。2040年度にはなんと約69万人もの大幅な不足が見込まれています。これらの数値は、介護業界がこれまでの慣習的な採用方法や労働環境のままではもはや対応できないことを示しています。

高齢化社会が招く労働力構造の変化

労働人口の構造的変化は、介護業界の人手不足に直接的な影響を及ぼしています。1950年には「65歳以上1人に対して15~64歳が12.1人」という労働力を支える構造でした。しかし2022年には、「65歳以上1人に対して15~64歳が2人」にまで低下しています。つまり、高齢者を支える労働世代が格段に少なくなっているのです。

こうしたデータからわかるのは、今後も労働力となる若年人口の減少が続く中で、介護業界は「人手が足りない」状態から簡単には抜け出せないという現実です。この構造的な問題は、賃金上昇や労働条件改善だけでは解決が難しく、人材確保と業務効率化の両面で根本的な改革が求められています。

介護現場が抱える人手不足の原因

なぜこれほどまでに介護業界では人材不足が顕著なのでしょうか。大きな要因として、「労働環境」「社会的なイメージ」「待遇面」の3つが挙げられます。また、国レベルの制度設計や業務内容の複雑化・増大も背景にあります。

労働環境の厳しさと離職率の高さ

介護職員は、身体的・精神的な負荷が大きい業務に日々従事しています。高齢者の身体介助、起床・就寝、入浴や排泄介助といった肉体労働に加え、コミュニケーション能力や観察力、状況判断力など、多面的なスキルが求められます。しかし、こうした重労働のわりに賃金は他産業に比べて見劣りしがちであり、離職率が高まる一因となっています。

また、24時間365日体制でのケアを求められる環境では夜勤やシフト制が不可避です。これによる生活リズムの乱れや心身の疲弊も、職員の定着率低下につながっています。

社会的イメージと若年層の敬遠

介護職は「大変なわりに給与が低い」「キャリアアップが見えづらい」といったネガティブなイメージが定着してしまっていることも問題です。若年層や潜在的な就労希望者に対して、魅力的なキャリアパスや明確な昇進・教育制度を提示できないと、他産業へと流出してしまいます。

国の制度と業務負担の増加

高齢化が進む中で介護ニーズは増加し、業務も複雑化しています。また、介護保険制度の見直しや、現場で求められる記録業務・事務作業の増加も、現場職員の負担増につながっています。こうした周辺業務が増えるほど、肝心のケア時間が削られ、人手不足がより深刻化する悪循環が生まれています。

人手不足解消に向けた従来の取り組みとその限界

これまでの対策として、賃金改善や処遇改善加算制度、外国人介護人材の受け入れ拡大、研修制度の整備などが行われてきました。確かにこれらは一定の効果をもたらすものの、根本的な人材不足の解決には至っていません。なぜならば、外部環境の変化(少子高齢化や労働人口減少)は待ったなしで進行しており、一時的なテコ入れだけでは対応しきれないからです。

また、人材確保のための労働条件改善や外国人材受け入れに踏み切っても、採用コストや教育コスト、言語・文化の違い、業務習熟までの時間など、新たな課題が発生します。従来型の対症療法的な手段だけでは、長期的な視点での持続可能な介護体制構築は困難といえます。

テクノロジーを活用した抜本的な人手不足解消への道

こうした状況下で注目されているのが、ITツールやテクノロジーを活用した業務効率化です。人手不足を補うだけでなく、業務全体を最適化し、限られた人材でも高品質なケアを提供するために、ITソリューションは大きな可能性を秘めています。

介護記録・情報共有システムによる事務負担軽減

介護現場では、利用者のバイタルサインや日々のケア内容、食事や入浴の記録など多くの情報を記録しなければなりません。これらを紙ベースで管理している施設では、記録に割く時間と労力が大きく、スタッフの業務時間が記録作業で圧迫されがちです。

ここで、介護記録ソフトウェアや電子カルテシステム、タブレット端末、クラウド共有システムを導入することで、職員が簡易かつ迅速に情報入力・閲覧できる環境が整います。これにより、紙媒体での煩雑な管理が軽減され、記録内容の抜け漏れを防ぎ、同時に情報の共有や引き継ぎもスムーズになります。

事務負担を減らすことで、本来のケア業務により多くの時間とエネルギーを投じることができ、人材不足による負荷を間接的に軽減できます。また、現場職員にとっては業務効率が上がることで精神的な余裕も生まれ、定着率向上にもつながる可能性があります。

AI・ロボティクスを活用した業務自動化

ロボットやAI技術は、すでに介護現場で一定の役割を果たし始めています。たとえば、移乗支援ロボットは、要介護者をベッドから車いすへ移乗する際の人手を削減し、職員の身体的負担を軽減します。また、見守りセンサーやAIカメラによって、入居者の異変(転倒、行動パターンの変化)を早期に察知することで、スタッフが常時見回りをする手間を一部省くことができます。

さらに、食事介助ロボットや排泄支援システムなど、身体的介助を肩代わりする機器の導入が進むことで、労働集約型だった介護業務が徐々に省力化・効率化されていく可能性があります。これらのテクノロジーは人材不足に対する直接的な「人の代替」にはならないかもしれませんが、業務負担を減らすことで、必要な人手を抑制し、既存の人材でより多くの利用者を支える体制構築に寄与します。

シフト管理や人事労務管理のデジタル化

シフト作成や勤務表管理は、施設管理者にとって大きな負担であり、計画が複雑になるほど時間的コストが増大します。また、勤怠管理や給与計算、教育訓練計画など、人事労務関連の業務は膨大です。これらをITツールで管理することで、より柔軟かつ迅速なシフト調整や人材配置が可能になります。デジタルツールによって人事労務担当者の負担を軽減し、最適な人材配置をスピーディに行うことで、現場の人手不足感を軽減できます。

ITツール導入で現場が得られる付加価値

ITツールの導入は、単なる業務効率化だけでなく、さまざまな付加価値をもたらします。

利用者満足度・家族安心感の向上

情報共有が円滑になることで、利用者やその家族への情報提供がタイムリーかつ正確になります。家族は離れていてもオンライン上でケア状況を確認できる仕組みがあれば、安心感が高まります。利用者のニーズや体調変化をシステム上で蓄積・分析することで、個別性の高いケアプランの策定も容易になり、利用者満足度が向上します。

職場環境改善による人材定着率の向上

ITツールやロボットを導入することで、職員が肉体的・精神的な負担を軽減し、業務をよりスムーズにこなせるようになります。この結果、従業者満足度が上がり、離職率低下につながります。結果として、施設経営者や管理者にとっても安定した人材確保が実現し、慢性的な採用コスト増加や労働力不足のスパイラルから脱却できる可能性があります。

長期的な経営基盤の強化

IT化による業務効率化は、長期的に見ると大幅なコスト削減にもつながります。人件費圧縮だけでなく、ミスや抜け漏れの減少によるサービス品質改善、顧客満足度向上による評判拡大、そして安定的な人材確保による事業継続性向上といった、経営基盤の強化が期待できます。

ITツール導入のステップと留意点

では、具体的にどのような手順でITツールを導入すればよいのでしょうか。重要なのは、まず現場の課題を明確化し、優先度の高い領域から導入を検討することです。

課題抽出とニーズ整理

記録業務が煩雑であれば、記録システムから着手するべきです。人材配置調整が難しければ、シフト管理ツールや勤怠管理システムを検討します。まずは現場職員や管理者へのヒアリングを行い、最大の「痛点」を洗い出します。

システム選定と導入体制の確立

課題が明確になったら、複数のベンダーを比較検討し、自施設に合ったシステムを選定します。初期費用・ランニングコスト、サポート体制、操作性、他システムとの連携可能性など、多角的な視点で評価します。また、導入時には職員向けの研修やマニュアル整備、運用ルールの確立も欠かせません。

導入後の検証と改善サイクルの構築

ITツールは導入して終わりではなく、導入後の運用状況を定期的に評価し、改善点をフィードバックすることで、システムの活用度を高められます。ユーザー(職員)からの意見を反映し、アップデートやカスタマイズを行うことで、より実用的で効果的なツールへと育てていくことが重要です。

まとめ

介護業界における人手不足は、少子高齢化や労働力構造の変化といった避けがたい社会現象によって引き起こされています。従来の対策では、慢性的な人手不足を根本から解消することは困難でした。しかし、ITツールやロボティクス、AIの活用により、業務効率化と労働環境改善が同時に進む可能性が見えてきています。

記録業務やシフト管理、人材育成といったバックオフィス業務から、見守り、移乗支援、身体介助の補助など実際のケア行為まで、IT化・ロボット化の余地は多岐にわたります。こうしたテクノロジー導入は、人手不足による質の低下を防ぐだけでなく、利用者満足度の向上や職員定着率改善、さらには経営基盤の強化につながる、ポジティブな効果をもたらします。

今後、さらなる高齢化が進むなか、介護業界が持続的に発展し、求められる質と量のサービスを提供し続けるには、もはやITツール導入は避けて通れません。介護業界の未来を切り開く鍵として、現場のニーズに合ったテクノロジーを積極的に活用することが、人手不足の根本的な解消策となり得るのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次