フレイルってどんな状態?サルコペニアとの違いとは

「最近、階段を上るのがつらくなった」「ペットボトルの蓋が開けにくい」「なんとなく疲れやすい」。こうした変化を年のせいだと見過ごしていませんか。実はこれらの症状は、要介護状態への入り口となる「フレイル」のサインかもしれません。

フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間に位置する虚弱状態を指します。しかし、早期に気づいて適切な対策を講じれば、元の健康な状態に戻ることができるという希望を持てる段階でもあります。

この記事では、ケアマネジャーとして多くの高齢者を支援してきた経験をもとに、フレイルの基本的な知識から、混同されやすいサルコペニアとの違い、そして今日から実践できる具体的な改善策まで、2025年の最新情報を交えて詳しく解説します。

この記事でわかること

  • フレイルの定義と3つの側面について
  • フレイルとサルコペニアの明確な違い
  • 自宅で簡単にできるセルフチェック方法
  • フレイル進行を抑制するための具体的な対策
目次

フレイルとは

フレイルは英語の「Frailty(虚弱)」を語源とする医学用語です。2014年に日本老年医学会がこの言葉を提唱して以来、高齢者医療や介護の現場で広く使われるようになりました。単なる「弱っている状態」ではなく、適切な介入によって改善可能な状態という点が重要な特徴です。

フレイルになるとどうなる?

フレイルの状態に陥ると、日常生活のさまざまな場面で支障が出始めます。具体的には、歩行速度が遅くなって横断歩道を渡りきれなくなったり、買い物袋を持つのがつらくなったりします。また、ちょっとした段差でつまずいて転倒するリスクも高まります。

厚生労働省の調査によると、フレイル状態にある高齢者は、そうでない方と比較して要介護状態に移行するリスクが約2.4倍になるとされています。さらに、入院や施設入所の確率も上昇し、生活の質が大きく低下する可能性があります。

フレイルによる日常生活への影響
影響を受ける領域 具体的な症状・変化 生活への支障
移動能力 歩行速度の低下、バランス機能の衰え 外出の減少、転倒リスク増加
筋力 握力低下、脚力の衰え 家事困難、階段使用の回避
認知機能 集中力・判断力の低下 服薬管理や金銭管理の困難
精神面 意欲低下、抑うつ傾向 閉じこもり、社会的孤立

フレイルになりやすいのはどんな人?

フレイルは65歳以上の高齢者に多く見られますが、特定の条件を持つ方はリスクが高まります。まず、慢性疾患を複数抱えている方は注意が必要です。糖尿病、心臓病、慢性腎臓病などの持病があると、体力の消耗が激しくなりフレイルに陥りやすくなります。

また、一人暮らしの高齢者も要注意です。食事の準備が面倒になり栄養不足に陥ったり、会話の機会が減って精神的な活力が低下したりしやすい傾向があります。さらに、配偶者との死別や退職など、大きなライフイベントをきっかけにフレイルが進行するケースも少なくありません。

フレイルは治る?

フレイルの最大の特徴は、早期発見と適切な介入によって健康な状態に戻れる可能性があるという点です。これが要介護状態との決定的な違いといえるでしょう。

国内外の研究では、運動療法と栄養改善を組み合わせた介入プログラムにより、フレイル状態の高齢者の約40〜50%が改善したという報告があります。特に、フレイルの前段階である「プレフレイル」の時点で対策を始めると、より高い改善率が期待できます。

フレイルは単なる衰弱ではない?

フレイルを正しく理解するためには、この状態が「身体的」「精神・心理的」「社会的」という3つの側面から成り立っていることを知る必要があります。身体的フレイルは筋力低下や持久力の衰えを指し、精神・心理的フレイルは認知機能の低下やうつ傾向を含みます。

そして見落とされがちなのが社会的フレイルです。これは外出頻度の減少、一人での食事、地域活動への不参加など、社会とのつながりが薄れた状態を意味します。この3つの側面は相互に影響し合い、悪循環を形成することがあるため、包括的なアプローチが求められます。

フレイルとサルコペニアの決定的な違い

フレイルと混同されやすい用語に「サルコペニア」があります。どちらも高齢者の健康に関わる重要な概念ですが、その範囲と意味合いには明確な違いがあります。ここでは両者の関係性を整理し、正確な理解を深めていきましょう。

筋肉量や筋力の低下に限定されるのがサルコペニア

サルコペニアは、ギリシャ語で「肉」を意味する「sarx」と「減少」を意味する「penia」を組み合わせた造語です。その名の通り、加齢に伴う筋肉量の減少と筋力の低下を指す医学用語として使われています。

サルコペニアの診断基準は、筋肉量、筋力、身体機能の3つの要素で判定されます。具体的には、四肢の筋肉量が基準値を下回り、握力が男性28kg未満・女性18kg未満、もしくは歩行速度が秒速0.8m未満である場合にサルコペニアと診断されます。

サルコペニアの診断基準
評価項目 男性の基準値 女性の基準値
握力 28kg未満 18kg未満
歩行速度 0.8m/秒以下 0.8m/秒以下
骨格筋量指数(SMI) 7.0kg/m²未満 5.7kg/m²未満

サルコペニアの原因としては、加齢による筋タンパク質合成能力の低下、運動不足、栄養摂取量の減少、ホルモンバランスの変化などが挙げられます。特に60歳以降は年間1〜2%ずつ筋肉量が減少するとされており、意識的な対策が必要になります。

精神や社会的な衰えまで含むのがフレイル

一方でフレイルは、サルコペニアを含むより広い概念です。筋肉の衰えだけでなく、認知機能の低下、意欲の減退、孤立といった精神的・社会的な側面も包含しています。つまり、サルコペニアはフレイルを構成する要素の一つと位置づけられます。

両者の関係を理解する上で重要なのは、サルコペニアがフレイルの入り口になりやすいという点です。筋力が低下すると外出が億劫になり、社会との接点が減少します。すると精神的な活力も失われ、食欲低下や栄養不足を招きます。この悪循環が「フレイルサイクル」と呼ばれています。

  • サルコペニアは筋肉量・筋力の低下という身体的現象に限定される
  • フレイルは身体・精神・社会の3領域にわたる包括的な虚弱状態を指す
  • サルコペニアの進行がフレイルを引き起こす大きな要因となる
  • どちらも早期発見と適切な介入により改善が期待できる

このように、サルコペニアとフレイルは密接に関連しながらも、その範囲と対策のアプローチが異なります。ケアマネジメントにおいては、筋力面だけでなく生活全体を見渡した支援計画が求められるのはこのためです。

自宅でできるフレイルのセルフチェック

フレイルの早期発見には、日頃から自分の体の状態を把握しておくことが欠かせません。ここでは医療機関を受診しなくても自宅で簡単に実施できる3つのセルフチェック方法を紹介します。定期的にチェックを行い、変化に気づいたら早めに対策を始めましょう。

ふくらはぎの太さを測る指わっかテスト

指輪っかテストは、サルコペニアの傾向を簡単に確認できるスクリーニング方法です。東京大学高齢社会総合研究機構が開発したこのテストは、特別な道具を必要とせず、誰でもすぐに実施できます。

やり方は簡単です。まず、両手の親指と人差し指で輪を作ります。次に、利き足ではない方のふくらはぎの最も太い部分を、その輪で囲んでみてください。結果の判定は以下の通りです。

指輪っかテストの判定基準
結果 状態 今後の対応
囲めない 筋肉量は十分に保たれている 現状維持を心がける
ちょうど囲める 筋肉量がやや減少している可能性 運動と栄養に注意を払う
隙間ができる サルコペニアの可能性が高い 医療機関への相談を検討

このテストで隙間ができた場合、転倒リスクや要介護状態への移行リスクが高まっている可能性があります。ただし、これはあくまでスクリーニングであり、正確な診断には医療機関での検査が必要です。

身体機能の変化に気づくイレブンチェック

イレブンチェックは、厚生労働省が推奨するフレイルの簡易評価ツールです。11の質問に「はい」か「いいえ」で回答することで、フレイルのリスクを多角的に評価できます。

  1. ほぼ同じ年齢の同性と比較して健康に気をつけた食事をしているか
  2. 野菜料理と主菜(肉・魚)を両方とも毎日2回以上食べているか
  3. さきいか・たくあん程度の硬さの食品を噛むことができるか
  4. お茶や汁物でむせることがないか
  5. 1回30分以上の汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施しているか
  6. 日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施しているか
  7. ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速いか
  8. 昨年と比べて外出の回数が減っていないか
  9. 1日に1回以上は誰かと一緒に食事をしているか
  10. 自分が活気にあふれていると思うか
  11. 何よりもまず物忘れが気にならないか

「いいえ」の回答が3個以上ある場合は、フレイルの傾向がある可能性があります。特に食事、運動、社会参加に関する項目で「いいえ」が多い場合は、生活習慣の見直しを検討してください。

日常生活の活動量を5つの診断指標に基づいて記録・評価

より詳細なフレイル評価には、Friedらが提唱した5つの診断指標を活用する方法があります。この基準は国際的に広く用いられており、臨床的な信頼性も高いとされています。

5つの指標とは、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動量です。これらのうち3つ以上に該当するとフレイル、1〜2つだとプレフレイル(フレイル前段階)と判定されます。

  • 体重減少:過去6か月間で意図せず2〜3kg以上減った
  • 筋力低下:握力が男性28kg未満、女性18kg未満
  • 疲労感:ここ2週間、わけもなく疲れた感じがする
  • 歩行速度:通常歩行で1m/秒未満(横断歩道を青信号で渡りきれない)
  • 身体活動量:軽い運動や散歩をほとんどしていない

日々の体重や活動内容を記録しておくと、変化に気づきやすくなります。スマートフォンの健康管理アプリを活用したり、カレンダーに簡単なメモを残したりする習慣をつけるとよいでしょう。

フレイルの進行を抑制には?

フレイルの予防と改善には、栄養・運動・社会参加の3本柱でアプローチすることが効果的です。これらを単独で行うよりも、組み合わせて実践することで相乗効果が期待できます。ここでは科学的根拠に基づいた具体的な対策を紹介します。

筋肉の維持に欠かせない栄養と口腔ケア

フレイル予防の土台となるのが適切な栄養摂取です。特に重要なのは、筋肉の材料となるたんぱく質を毎食しっかり摂ることです。65歳以上の高齢者は、体重1kgあたり1.0〜1.2gのたんぱく質摂取が推奨されています。

たんぱく質を効率よく摂取するには、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品を毎食バランスよく取り入れることが大切です。特に朝食でたんぱく質が不足しがちな方が多いため、ゆで卵や納豆、ヨーグルトなど手軽に食べられるものを活用しましょう。

たんぱく質を効率的に摂取できる食品例
食品 1食分の目安量 たんぱく質量
鶏むね肉 100g 約23g
鮭の切り身 1切れ(80g) 約18g
1個 約6g
木綿豆腐 150g 約10g
サバ缶 1缶(190g) 約26g

また、見落とされがちなのが口腔機能の維持です。歯や歯茎の状態が悪化すると、硬いものが噛めなくなり、肉や野菜を避けるようになります。これがオーラルフレイルと呼ばれる状態で、全身のフレイルにつながります。定期的な歯科検診と毎日の口腔ケアを欠かさないようにしましょう。

筋力低下を防ぐ効果的なレジスタンス

筋力を維持・向上させるには、筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動(筋力トレーニング)が欠かせません。ウォーキングだけでは筋肉量の維持には不十分であり、週2〜3回程度の筋力トレーニングを組み合わせることが推奨されています。

自宅で安全に実施できる運動として、以下のものがあります。無理のない範囲で、できることから始めてみてください。

  • 椅子からの立ち上がり運動:椅子に座った状態からゆっくり立ち上がり、ゆっくり座る動作を10回繰り返す
  • かかと上げ運動:壁や椅子の背もたれにつかまり、かかとを上げ下げする動作を20回行う
  • もも上げ運動:椅子に座った状態で片足ずつ太ももを持ち上げる動作を左右10回ずつ行う
  • スクワット:肩幅に足を開き、膝がつま先より前に出ないよう注意しながら腰を落とす動作を10回行う

運動を継続するコツは、日常生活の中に組み込むことです。テレビを見ながらかかと上げをする、歯磨きの間にスクワットをするなど、習慣化しやすい工夫を取り入れましょう。また、運動後30分以内にたんぱく質を摂取すると、筋肉の合成効率が高まります。

意欲低下を防止する他者との積極的な社会参加

近年の研究では、社会的なつながりがフレイル予防において非常に重要な役割を果たすことが明らかになっています。たとえ運動や食事に気をつけていても、孤立した生活を送っている人はフレイルのリスクが約2倍になるというデータもあります。

社会参加の形は人それぞれです。地域のサロンや体操教室に参加する、ボランティア活動に携わる、趣味の集まりに顔を出すなど、自分に合った方法を見つけることが大切です。週に1回以上、家族以外の誰かと会話をする機会を持つことを目標にしてみましょう。

また、就労を継続することも有効な社会参加の一つです。シルバー人材センターへの登録や、パートタイムでの就労など、体力に合わせた働き方を検討するのもよいでしょう。人に必要とされているという感覚が、心身の健康維持に大きく寄与します。

よくある質問

Q. フレイルとロコモティブシンドロームの違いは何ですか?

A. ロコモティブシンドローム(ロコモ)は、骨・関節・筋肉など運動器の障害により移動機能が低下した状態を指します。一方、フレイルは運動器だけでなく、精神面や社会面も含めた全身の虚弱状態を意味します。ロコモが進行するとフレイルにつながりやすく、両者は密接に関連しています。

Q. フレイルの予防は何歳から始めるべきですか?

A. フレイル予防は早ければ早いほど効果的です。一般的には50代後半から意識し始めることが推奨されますが、40代から運動習慣や栄養管理に気を配ることで、将来のフレイルリスクを大幅に軽減できます。特にサルコペニアは40歳頃から徐々に始まるため、早期からの対策が重要です。

Q. フレイルかもしれないと思ったら、どこに相談すればよいですか?

A. まずはかかりつけ医に相談することをおすすめします。また、お住まいの地域包括支援センターでも相談を受け付けています。地域包括支援センターでは、介護予防教室の案内や、必要に応じて専門機関への橋渡しも行っています。一人で抱え込まず、早めに専門家の意見を聞くことが大切です。

まとめ

フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間に位置する虚弱状態であり、身体的・精神的・社会的な3つの側面から成り立っています。サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)はフレイルを構成する重要な要素ですが、フレイルはより広い概念であることを理解しておきましょう。

フレイルの最大の特徴は、早期に発見して適切な対策を講じれば改善が可能だという点です。指輪っかテストやイレブンチェックを活用した定期的なセルフチェックで、自分の状態を把握することが予防の第一歩となります。

具体的な対策としては、たんぱく質を中心とした栄養摂取、週2〜3回のレジスタンス運動、そして社会参加による人とのつながりの維持が重要です。これら3つを組み合わせて実践することで、より高い効果が期待できます。

まずは今日から、指輪っかテストで自分のふくらはぎの状態を確認してみませんか。そして明日の朝食に卵を1個プラスすることから、フレイル予防の一歩を踏み出してみてください。

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