Walmartの小売業革新と世界展開の歴史

Walmartは、世界最大の小売企業として長年君臨してきましたが、近年Eコマースの台頭によって大きな転換期を迎えています。米国の小売市場が成熟化し、Amazonをはじめとするネット通販勢との競争が激化する中、Walmartは従来の店舗販売の強みを活かしつつ、ECとの融合を図る新たなビジネスモデルへの変革を迫られているのです。今後、オンラインと実店舗の相乗効果をいかに生み出していけるかが、Walmartの明暗を分ける鍵となりそうです。小売業のリーディングカンパニーとして、時代の変化に即した戦略の再構築が求められています。

Walmartの創業とディスカウントストア事業の始まり

サムワルトン氏の経歴とWalmart創業の経緯

Walmartの創業者であるサム・ウォルトン氏は、1918年にオクラホマ州で生まれました。第二次世界大戦後、ウォルトン氏はアーカンソー州ニューポートでバラエティストア事業を始めます。1950年代に入ると、ウォルトン氏は複数の店舗を展開し、ディスカウントストアの事業モデルを構築していきました。1962年、アーカンソー州ロジャーズに初のWalmart店舗がオープンし、現在の世界最大の小売企業への第一歩を踏み出したのです。

ディスカウントストアというビジネスモデルの革新性

Walmartが展開したディスカウントストアというビジネスモデルは、当時の小売業界に大きな革新をもたらしました。その特徴は以下の通りです。

1. 大量仕入れによるコストダウンと低価格販売
2. 郊外型の大型店舗による利便性の向上
3. POS システムなどの最新技術の導入による効率化

これらの特徴により、Walmartは低価格と利便性を武器に急速に成長していきました。

顧客第一主義の経営哲学がWalmartの原点

サム・ウォルトン氏は、顧客満足を何よりも重視する経営哲学を掲げました。彼は、顧客のニーズに徹底的に応えることが事業成功の鍵だと考えていたのです。この経営哲学は、今日のWalmartにも脈々と受け継がれています。

経営哲学	内容
顧客第一主義	顧客満足を最優先に考え、ニーズに応える
低価格重視	徹底したコストダウンにより低価格を実現する
地域密着	地域社会に貢献し、信頼関係を築く

Walmartの創業期における革新的なビジネスモデルと顧客重視の経営姿勢は、今日の世界的な成功の礎となったのです。

全米展開と小売業界でのシェア拡大

アメリカ南部から全土へ店舗網を急速に拡大

創業から10年足らずの1970年代初頭、Walmartはアメリカ南部を中心に店舗網を拡大していきました。アーカンソー州、オクラホマ州、ルイジアナ州、テキサス州などの南部諸州で次々と新店舗をオープン。1980年代に入ると、全米各地に進出し、店舗数は1,000店舗を突破しました。この急速な店舗網の拡大により、Walmartは全米規模の小売チェーンへと成長を遂げたのです。

SCM(サプライチェーンマネジメント)の導入で効率化を推進

急成長を支えたのが、SCM（サプライチェーンマネジメント）の導入でした。Walmartは早くから最新の情報システムを導入し、商品の調達から販売までのプロセスを効率化しました。

1. POSシステムによる販売データの一元管理
2. 自社配送センターの設置による物流の効率化
3. サプライヤーとのコラボレーションによる商品開発

これらのSCM施策により、Walmartは低コストオペレーションを実現し、価格競争力を高めていったのです。

EDLPの徹底でコスト削減と低価格を両立

Walmartが店舗展開とともに重視したのが、EDLP（Everyday Low Price＝毎日低価格）戦略です。大量仕入れによるコストダウンで実現した低価格を、セールなどに頼らず常に提供するというものです。徹底した低価格販売は、他の追随を許さぬ強力な集客力となりました。EDLPは今日でもWalmartの代名詞的な経営戦略となっています。

1990年代に入ると、Walmartは食品スーパーであるスーパーセンター業態の展開を本格化。衣料品や日用雑貨だけでなく、生鮮食品や一般食品も扱う総合スーパーの形態をとることで、一層の成長を遂げました。

年代	Walmartの成長
1970年代	アメリカ南部で店舗網を拡大
1980年代	全米各地に1,000店舗以上を展開
1990年代	スーパーセンター業態を本格展開

こうした effort の結果、Walmartはアメリカ国内で圧倒的なシェアを獲得。今日では全米で4,600店舗以上を展開し、世界最大の小売企業としての地位を不動のものとしているのです。

海外進出と世界最大の小売企業へ

1990年代以降、カナダやメキシコなど海外へ出店を加速

Walmartは1990年代に入ると、海外市場への進出を本格化させました。1994年にカナダに初の海外店舗をオープンし、1995年にはメキシコにも進出。その後、ブラジル、アルゼンチン、中国、韓国、イギリス、ドイツなど、世界各国に店舗網を拡大していったのです。海外展開に当たっては、M&Aによる有力小売チェーンの買収を積極的に行いました。

進出国	進出年	主な展開方式
カナダ	1994年	新規出店
メキシコ	1995年	合弁会社設立
中国	1996年	合弁会社設立
イギリス	1999年	ASDAを買収
日本	2002年	西友を買収

M&Aで各国の有力小売チェーンを買収し、シェアを獲得

海外進出に際して、Walmartが得意としたのがM&Aです。各国の有力小売チェーンを次々と買収することで、一気にシェアを獲得する手法をとりました。

• 1999年にイギリスの大手スーパーマーケットチェーンASDAを買収
• 2002年に日本の総合スーパー西友を買収
• 2012年に南アフリカの小売大手Massmart Holdingsを買収

このようなM&Aにより、Walmartは短期間のうちに各国で大きなプレゼンスを獲得することに成功したのです。買収した現地企業のノウハウを活かしながら、Walmartの効率的なオペレーションを導入。シナジー効果を最大限に発揮することで、海外市場でもシェアを拡大していきました。

店舗数・売上高で世界No.1の座を不動のものに

海外への積極展開の結果、Walmartは今や世界24カ国に約1万1,500店舗を展開するグローバル企業となっています。世界売上高は5,000億ドル以上に達し、地球上のどの小売企業よりも巨大な規模を誇ります。

• 世界24カ国で約1万1,500店舗を展開
• 世界売上高は5,000億ドル以上
• 世界の小売企業で売上高・店舗数ともにNo.1

サム・ウォルトン氏が1962年にアーカンソー州の小さな町で創業した小売店が、半世紀余りで世界最大規模の小売企業へと成長を遂げたのです。革新的なビジネスモデル、経営哲学、テクノロジーの活用など、様々な強みを武器にグローバル市場の開拓に成功。まさに「世界のWalmart」と呼ぶにふさわしい企業になりました。

Walmartは今後も世界中の人々の暮らしに寄り添いながら、小売業の変革者としての地位を揺るぎないものにしていくことでしょう。創業者 サム・ウォルトン氏の精神を受け継ぎ、顧客の声に耳を傾け、常に革新を続ける。それがWalmartのDNAなのです。

Eコマース分野への注力と事業モデルの変革

アマゾンに対抗し、ネット通販に本格参入

近年、Eコマース市場が急成長する中、Walmartはアマゾンに対抗すべく、ネット通販事業に本格的に乗り出しました。2016年にはECサイト「Walmart.com」を刷新し、品揃えの拡充や配送の迅速化に努めています。さらに、ネット専業の新興EC企業Jet.comを31億ドルで買収するなど、M&Aによる事業強化も積極的に行っています。

実店舗の強みを活かしたオムニチャネル戦略を推進

Walmartはネット通販に力を入れる一方で、リアル店舗網という強みを活かしたオムニチャネル戦略も推進しています。店舗受取サービス「Site to Store」や、オンラインで注文した商品を店舗で受け取れる「Pickup Today」など、オンラインとオフラインを融合させた独自のサービスを展開。顧客の利便性を高めることで、Eコマースと実店舗の相乗効果を図っています。

サービス名	内容
Site to Store	Eコマースで注文した商品を店舗で受取
Pickup Today	Webで注文後、当日中に店舗で商品受取
Pickup Discount	店舗受取を選択すると割引価格で購入可能

ラストワンマイル配送の強化で利便性を向上

Eコマースにおける「ラストワンマイル」、すなわち配送の最終工程を強化することも、Walmartの重要な施策です。自社配送網の拡充に加え、ライドシェアサービスUberとの提携により迅速な宅配を実現。また、ドローンを活用した配送の実験なども行っています。こうした取り組みにより、オンライン注文に対するシームレスな配送体制の構築を目指しているのです。

• 自社配送センターの全米展開を加速
• Uberとの提携でラストワンマイル配送を強化
• ドローン配送の実用化に向けた実験を推進

Eコマースの台頭により大きな転換期を迎えている小売業界において、Walmartは従来の店舗販売とネット通販を高度に融合させた新しいビジネスモデルへの変革を進めています。オムニチャネル戦略の推進、ラストワンマイル配送の強化など、Walmartの取り組みは、これからの小売のあり方に大きな示唆を与えてくれそうです。

地域密着と社会貢献活動

各地域のニーズに合わせた品揃えと店舗展開

Walmartは、世界各国の地域特性やニーズに合わせて、店舗の品揃えや業態を柔軟に変化させることで、地域密着型の展開を図っています。例えば、中国では現地の食文化に合わせた生鮮食品の品揃えを強化し、インドでは小型店舗フォーマットを展開するなど、各国の市場環境に適応しながら成長を続けているのです。こうした地域密着戦略により、Walmartは世界中のお客様から支持されるグローバルリテイラーの地位を築いています。

雇用創出と従業員の待遇改善への取り組み

Walmartは店舗展開を通じて、各地域で数多くの雇用を創出しています。そして、従業員の待遇改善にも積極的に取り組んでいます。具体的には、以下のような施策を行っています。

• 全米で時給引き上げを実施
• パートタイム社員の医療保険適用を拡大
• 社員の学費援助プログラムを導入

こうした従業員の待遇改善により、社員のモチベーション向上とサービス品質の向上を図っているのです。Walmartにとって、従業員はかけがえのない財産であり、その成長なくして企業の発展はないという考えが根底にあるのです。

サステナビリティと社会課題解決にも注力

Walmartは、企業の社会的責任を果たすべく、環境保護や社会課題の解決にも力を入れています。具体的な取り組みは以下の通りです。

取り組み内容	目標
再生可能エネルギーの導入拡大	2035年までに全電力を再エネ化
食品ロス削減の推進	2025年までに食品廃棄を50%削減
サプライチェーンの透明化	倫理的な調達を徹底
女性活躍の推進	管理職に占める女性比率を向上

Walmartは、こうしたサステナビリティ経営を通じて、社会や環境と共生しながら持続的な成長を目指しているのです。小売業の枠を超えて、よりよい世界づくりに貢献する。それが、Walmartのめざす企業像なのです。

地域に根差した事業展開、従業員の待遇改善、社会課題解決への取り組み。創業の精神を受け継ぎながら、時代に合わせて変化を遂げるWalmart。その先進的な取り組みは、世界の小売業界をリードし続けていくことでしょう。

参考文献

1. Walmart Corporate – Our History : https://corporate.walmart.com/our-story/our-history
2. Walmart Corporate – Location Facts : https://corporate.walmart.com/our-story/locations/united-states
3. Walmart Corporate – Sustainability : https://corporate.walmart.com/global-responsibility/sustainability/

Sam’s Clubの展開と会員制ビジネスの可能性

会員制倉庫型店舗Sam’s Clubを全米で展開

Walmartは、1983年にオクラホマ州で会員制倉庫型店舗「Sam’s Club」の1号店をオープンしました。Sam’s Clubは、業務用の大量パックや大型商品を低価格で提供する会員制の店舗です。年会費を支払った会員のみが利用できる仕組みにより、低コストオペレーションを実現しています。創業後、Sam’s Clubは全米で急速に店舗網を拡大し、今では600店舗以上を展開。会員数は約4,000万人に上ります。

BtoB需要の取り込みで独自のポジションを確立

Sam’s Clubの特徴は、業務用需要の取り込みにあります。飲食店や小売店など、法人の会員向けに大量の商品を安価で提供することで、BtoB市場に食い込んでいるのです。大手小売チェーンのコストコが一般消費者を主なターゲットとしているのに対し、Sam’s Clubは業務用需要に強みを持つという点で差別化が図られています。

	Sam’s Club	コストコ
主要顧客	法人（飲食店、小売店など）	一般消費者
品揃えの特徴	業務用の大量パック商品が中心	一般消費者向けの商品が中心
店舗立地	郊外の倉庫型店舗が中心	都市近郊の倉庫型店舗が中心

このように、Sam’s Clubは業務用需要に特化することで、会員制倉庫型店舗市場において独自のポジションを確立しているのです。

ロイヤルカスタマーの囲い込みによる成長戦略

Sam’s Clubの成長を支えているのが、ロイヤルカスタマーの囲い込みです。大口の法人会員との長期的な取引関係を構築することで、安定的な売上を確保しているのです。さらに、こうしたロイヤルカスタマーのニーズに合わせた品揃えの最適化や、専用サービスの提供など、きめ細かな対応によって顧客満足度を高め、リピート率のアップを図っています。

• 法人会員との長期的な取引関係の構築
• 大口顧客のニーズに合わせた品揃えの最適化
• 専用の配送サービスや決済サービスの提供

Sam’s Clubは、こうしたロイヤルカスタマー戦略により、会員制ビジネスの強みを存分に発揮。Walmartにとって重要な収益の柱へと成長を遂げています。今後は、データ分析による個客対応のさらなる高度化や、法人向けサービスの拡充などを通じて、BtoBマーケットにおけるプレゼンスをいっそう高めていくことが期待されます。

小売業の枠を超えた会員制ビジネスの展開によって、新たな成長機会を切り拓くSam’s Club。その挑戦は、Walmartのビジネスモデル変革を体現した取り組みだと言えるでしょう。今後、Sam’s Clubがどのような進化を遂げていくのか。その動向から目が離せません。

これからのWalmartの展望と課題

成熟した米国市場でのさらなるシェア拡大の難しさ

Walmartは、すでに高いシェアを獲得している米国市場において、さらなる成長を遂げることが難しくなっています。市場の飽和状態に加え、Amazonをはじめとするオンライン専業企業との競争激化により、業績の伸び悩みが見られます。今後は、既存店舗の収益性向上と、ECとの融合による成長戦略の構築が不可欠です。

新興国市場の開拓と各国での地域適応の必要性

今後の成長の鍵を握るのが、中国やインドなどの新興国市場攻略です。しかし、これらの国々では、所得水準や消費者の嗜好、商習慣などが米国とは大きく異なります。画一的な店舗展開ではなく、各国の特性に合わせた品揃えや価格設定、販促施策などを講じる「地域適応」が欠かせません。パートナー企業との提携などを通じた、ローカライズ戦略の推進が求められます。

進出先	地域適応の例
中国	・現地品の品揃え拡大 ・モバイル決済への対応
インド	・カースト制度への配慮 ・個人商店との棲み分け
メキシコ	・ボデガ業態の展開 ・ローカルな販促の実施

Eコマース分野での巻き返しと店舗との融合

米国のEC市場でAmazonに大きく水をあけられているWalmartにとって、ネット通販への本格参入は急務の課題です。Walmart.comの拡充や、EC企業の買収などにより、オンラインでの存在感を高めていく必要があります。その一方で、全米の店舗網というWalmartの強みを活かし、オンラインと店舗を融合させたオムニチャネル戦略の推進も欠かせません。

• EC専門子会社の設立による機動力の向上
• 店舗受け取りサービスの拡充で利便性向上
• リアルとネットの会員データ統合による最適化

Walmartは今、「EC vs. 店舗」の二項対立を超え、両者の強みを掛け合わせた新しいビジネスモデルへの変革が求められています。世界最大の小売企業としての地位を不動のものとするには、オンラインと店舗の相乗効果の創出が不可欠なのです。サム・ウォルトン氏が築き上げた「顧客第一主義」の精神のもと、変化の波を的確に捉えた戦略転換を図ることが、Walmartに課された使命と言えるでしょう。

まとめ

Walmartは、1962年にアメリカ・アーカンソー州で創業した小売業界の革新者です。低価格戦略と効率的な物流システムで急成長を遂げ、今や世界最大級の小売企業に。日用品や食料品だけでなく、家電製品も豊富に取り揃え、お買い得価格で提供しています。Eコマースにも力を入れ、オンラインでの販売も拡大中。今後もWalmartは、世界中のお客様に満足いただける商品とサービスを追求し、小売業界をリードしていくでしょう。

参考文献