公共工事の入札に参加するために欠かせないのが「経営事項審査(経審)」です。経審とは、建設会社の経営規模や財務状況、技術力、社会性などを客観的な数値に置き換え、総合評定値P点として評価する制度を指します。このP点が自治体の入札ランクに直結するため、公共工事を狙う建設業者にとっては避けて通れない仕組みです。
本記事では「経営事項審査とは」という基本から、P点を構成するX・Y・Z・Wの評点構造、評点を高める具体策、初めての申請手順までを平易に整理します。制度改正への注意点や失敗事例も交えながら、経営戦略に活かせる視点を提示します。
この記事でわかること
- 経営事項審査の法律上の位置づけと基本概念
- 総合評定値P点を構成する5つの評点の仕組み
- Y点・Z点・W点を高める具体的な改善対策
- 初めて経審を申請する際の実務手順と有効期限管理
経審(経営事項審査)とは
経営事項審査とは、公共工事を発注者から直接請け負う建設業者が必ず受けなければならない客観的な評価制度です。ここではその法的な位置づけと基本概念を整理します。
経営事項審査が求められる法律上の位置づけ
公共工事は税金や国債を原資とするため、発注者は誰が見ても公平だと納得できる基準で受注者を選ぶ必要があります。そこで建設業法に基づき、経営規模や技術力、財務状況、社会性を数値化する制度が経営事項審査です。
国や地方公共団体が発注する公共工事を直接請け負う場合、経営事項審査を受けていることが法律上の必須要件とされています。許可を持つだけでは入札に参加できず、経審の受審がその前提となる点が重要です。
入札参加資格審査における明確な違い
経営事項審査は「客観的事項」を数値化する制度であり、これとは別に発注機関が過去の施工成績や地域事情を評価する「主観的事項」の審査があります。両者を組み合わせて等級や順位が決まる仕組みです。
経審はあくまで客観評価の部分を担い、そのスコアであるP点を入札参加資格審査に持ち込むことで、初めて具体的な入札ランクが確定します。経審(客観的事項の審査)と、自治体ごとに行う入札参加資格審査(主観的事項を含む申請手続き)は別の手続きである点を混同しないことが大切です。
初心者でも理解しやすい経営事項審査の基本概念
経審を受けるには、まず建設業許可を取得していることが前提です。許可が「建設業の入口」、経審が「公共工事市場への入口」という二段階構造だと理解するとわかりやすいでしょう。
経審を受けると「経営規模等評価結果通知書・総合評定値通知書」が交付され、会社の実力が公正中立な数値として示されます。この通知書を用いて自治体の入札参加資格を申請する流れになります。
民間工事中心の建設業者が経営事項審査を受ける意義
経審は公共工事のための制度ですが、民間工事中心の建設業者にとっても大きな意義があります。ここでは受審によって得られるメリットを整理します。
元請依存からの脱却に向けた公共工事の獲得メリット
下請中心の建設業者が公共工事を元請として受注できるようになると、収益構造が大きく変わります。公共工事は発注者の信用が高く、代金の支払いも安定しているため、経営基盤の強化につながります。
経審を受けることで入札参加資格を得られ、下請依存から脱却する道が開けます。元請完成工事高の積み上げはZ点向上にも直結し、会社の成長と評点改善を同時に進められる点が大きな魅力です。
吹き出し:「ランクだけじゃないです。銀行から評価される。銀行からM&A案件が紹介される。仕事をもらえる。こういう流れを作り出せるきっかけ作りが経審作成です。」
経審が企業の信用力向上に寄与する可能性
経審を受けると、技術力や財務状況、法令遵守などが第三者による客観評価として公開されます。この情報は民間の発注者が請負者を選ぶ際の判断材料の一つになることもあります。
特に大型の民間プロジェクトでは、発注者が建設会社の財務状況を厳しくチェックする傾向があり、経審の結果通知書が信用材料の一つとして扱われるケースも見られます。公共工事を主軸にしない企業であっても、経審を信用力向上の補助的指標として活用できるでしょう。
経営事項審査を受けた中小建設業者の失敗事例
経審を受けても、必ずしも公共工事の受注や利益につながるとは限りません。ここでは中小建設業者が陥りやすい失敗事例を紹介します。
評点を獲得しても入札ランク不足で落札できないケース
経審のP点を得ても、そのP点が狙う工種の等級基準に届いていなければ、上位ランクの入札には参加できません。P点は工種ごとに算出されるため、主力工種で必要なランクに達しているかの確認が欠かせません。
例えば東京都では、工事種別ごとにP点と客観等級の対応表が公表されています。自社が参加したい工事の等級基準を事前に把握せず申請すると、期待した入札に参加できない事態が生じます。
公共工事受注後に赤字施工へ陥るケース
入札に勝って工事を受注できても、原価管理が甘いと赤字施工に陥る危険があります。落札金額の見積もりを誤ったり、想定外の追加コストが発生したりすると、受注そのものが経営を圧迫します。
公共工事は品質や工程の管理が厳格であり、施工成績が次の受注機会にも影響します。目先の落札にとらわれず、適正な利益を確保できる工事を選別する視点が求められます。
経営事項審査の点数が伸びない根本原因
経審の評点が思うように伸びない背景には、いくつか共通する根本原因があります。ここでは代表的な3つの要因を確認します。
完成工事高の数値のみを重視する運用のリスク
完成工事高評点X1はP点への寄与が25%と大きく、多くの企業が注目します。しかし完成工事高だけを追うと、利益率や財務健全性を評価するY点がおろそかになり、総合的なP点が伸び悩むことがあります。
P点はX・Y・Z・Wのバランスで決まるため、完成工事高だけを見る運用は危険です。売上規模と財務体質、技術力を総合的に高める姿勢が評点改善には不可欠です。
自社の強みに適合しない工事種類の選択
経審は建設業許可を持つ業種ごとに申請します。自社の強みや実績と合わない工種で申請しても、完成工事高や技術者が不足して評点が伸びません。
どの業種で経審を受けるかは、過去の入札実績や自社が受注できなかったデータから逆算して決める必要があります。外部アドバイザーの助言だけに頼るのではなく、自社の実態を踏まえた判断が重要です。
吹き出し:「現在やっぱ行政書士に頼む人が大多数。ただ何を取るのっていうね、つまり自分が入札できなかったデータから導き出されないといけないので、行政書士のアドバイスだけで決めちゃいけないんですよ」
決算前の財務数値対策を怠る申請手順
Y点は決算の財務データをもとに算出されるため、決算が確定してから対策しようとしても手遅れです。負債の圧縮や自己資本の充実は、決算日を迎える前に計画的に取り組む必要があります。
決算数値は経審の評点に直結するため、決算前の段階から数年先を見据えたシミュレーションを行うことが評点改善の鍵となります。計画性のない申請は、更新時期の評点急落を招きます。
経営事項審査における点数・評点の仕組み
経審の中心となるのが総合評定値P点です。ここではP点を構成する評点の計算式と、各項目の役割を詳しく見ていきます。
総合評点(P点)を構成する5つの評価項目
総合評定値P点は、次の計算式で算出されます。各評点に定められたウエイトを掛け合わせて合算する仕組みです。
| 評点 | 評価内容 | ウエイト |
|---|---|---|
| X1 | 完成工事高(経営規模) | 25% |
| X2 | 自己資本額・利益額など経営規模 | 15% |
| Y | 経営状況分析(財務) | 20% |
| Z | 技術職員数・元請完成工事高 | 25% |
| W | 社会性等(保険・法令遵守) | 15% |
計算式は「P=0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15W」で表され、X1とZの比重が最も大きくなっています。P点を上げる近道は、完成工事高と技術力を高めることだといえます。
完成工事高(X1点)が評点に及ぼす影響
完成工事高評点X1は、業種区分ごとに39区分の評点テーブルに基づき、直近2年または3年の年間平均完成工事高から算出されます。選択した年数はZ点の元請完成工事高とも連動します。
例えば平均完成工事高が2億円の場合、該当する区分の算定式(国土交通省「経営事項審査の手引き」記載の評点テーブルに基づく)に当てはめるとX1評点が790点となり、これにウエイト25%を掛けるとP点への寄与は約197点になる計算です。完成工事高の水準がP点を大きく左右することがわかります。
経営状況分析(Y点)を決定づける8つの財務指標
経営状況評点Yは、国土交通大臣が登録した経営状況分析機関が算出します。8つの財務指標から経営状況点数Aを求め、「Y=167.3×A+583」の式でYを計算する構造です。
| 分類 | 指標 |
|---|---|
| 負債抵抗力 | 純支払利息比率、負債回転期間 |
| 収益性・効率性 | 総資本売上総利益率、売上高経常利益率 |
| 財務健全性 | 自己資本対固定資産比率、自己資本比率 |
| 絶対的力量 | 営業キャッシュフロー、利益剰余金 |
負債関連の指標にはマイナスの係数が付き、収益性や財務健全性の指標にはプラスの係数が付きます。負債が少なく収益性が高い会社ほどY点が高くなる設計です。
技術職員数(Z点)による技術力評価の算出基準
技術力評点Zは、技術職員数と元請完成工事高を組み合わせて工種ごとに算出されます。P点への寄与は25%と大きく、会社の「技術の底力」を示す指標です。
技術職員には資格に応じてポイントが割り当てられ、1級技術者で監理技術者講習修了者(現場に配置する監理技術者になるために必要な講習を修了した技術者)は6点、1級技術者は5点、監理技術者補佐(1級技術者を補佐できる資格を持つ技術者)は4点、基幹技能者等は3点、2級技術者は2点、実務経験者1点とされています(国土交通省が定める基準に基づく)。上位資格者が多いほどZ点が高くなります。
社会性等(W点)による加減点の評価構造
W評点は社会保険加入、法令遵守、防災活動、建設機械の保有など8項目を評価します。算出式はW1〜W8の合計点数に一定の係数を掛ける仕組みで、令和5年8月14日以降を審査基準日とする申請からは 「合計点数×10×175÷200」が適用されています。これは、それ以前に適用されていた「×10×190÷200」よりも低い係数です(国土交通省「経営事項審査の項目及び審査基準の改正について」)。
W点は加点だけでなく減点もあり、社会保険未加入や法令違反があると大きくマイナスとなります。下限が撤廃されているため、加点要素が少ない企業ほどマイナス幅が大きくなる点に注意が必要です。この係数引き下げにより、W点がP点全体に与える影響もやや小さくなっており、W点だけに依存した評点アップは以前より効果が限定的になっている点を押さえておきましょう。なお、具体的な下限値や算出テーブルの最新情報は、登録経営状況分析機関または許可行政庁への確認を推奨します。
経営事項審査の評点を高める改善対策
P点を高めるには、各評点の性質に応じた対策が必要です。短期で効果が出る項目と、中長期的な取り組みが必要な項目を区別して進めましょう。
Y点向上に向けた決算数値の改善施策
Y点を高めるには、固定資産や借入金を減らし、受取利息や配当金を計上するなど、財務指標を意識した対策が有効です。これらは負債抵抗力や財務健全性の指標を改善します。
貸借対照表は経営者自身が読み込み、数年先まで数値をコントロールする姿勢がY点改善には欠かせないといえます。数字が苦手なら経理担当に任せてもよいですが、経営者が理屈を理解することが会社の成長条件です。
吹き出し:「貸借対照表は社長1人で作るもんですからね。売上利益は従業員にも共有するケースありますけど、バランスシートを共有することほとんどありませんので、社長がしっかり見ないといけない。」
Z点加点を狙う技術資格の効率的な取得施策
Z点を高めるには、上位資格を持つ技術者を増やすことが有効です。若手技術者への受験費用補助や講習受講の推奨など、資格取得を支援する環境づくりが求められます。
すでに1級技術者資格を持つ社員には監理技術者講習の受講を促すことで、ポイントを加算できます。あわせて元請完成工事高を積み上げることで、Z点と会社の市場ポジションを同時に強化できます。
W点加点を短期間で確保する具体的な取り組み
W点は比較的短期間で改善しやすい分野です。以下のような取り組みが加点につながります。
- 健康保険・厚生年金保険・雇用保険への加入
- 建設業退職金共済や退職一時金制度の導入
- 就業規則の労働基準監督署への届出
- ISO9001・ISO14001などの認証取得
これらは従業員の福利厚生や安全体制の向上にも直結します。公共工事の担い手として社会保険加入は当然の要件であり、メリット・デメリットの議論以前の前提だと捉えるべきです。
吹き出し:「公共事業で税金をいただくわけですよ。それの要件として保険があるんですよ。そもそも保険に入るのが当たり前なんですよ。しかも公共でしょ。だから社会保険に入る。これが普通です」
経営事項審査を初めて申請する実務手順
初めて経審を申請する際は、決められた順序で手続きを進める必要があります。ここでは申請から通知書受領までの流れを整理します。
経営状況分析機関に対する申請手続きの流れ
まず建設業許可を受けている行政庁に決算変更届を提出し、その後に登録経営状況分析機関へ経営状況分析を申請します。財務諸表3期分や減価償却実施額の確認資料などを提出します。
分析機関からの結果通知書は概ね2〜7日程度で発行されます。この通知書がなければ経営事項審査の申請ができないため、決算後は分析申請を優先的に進めることが大切です。
行政窓口へ提出する経営規模等評価の申請手順
経営状況分析結果通知書を受領したら、許可行政庁へ経営事項審査を申請します。必要書類には工事請負契約書、保険加入証明、消費税納税証明書などがあり、事前に一覧化して準備しておくと確実です。
申請手数料は業種数に応じて変わり、1業種で11,000円、以降1業種増えるごとに2,500円ずつ加算されます。準備期間として3か月程度を見込んでおくと安心です。
総合評点通知書の受領後における有効期限の管理方法
経審が終わると、東京都で約1か月、関東地方整備局で約3か月ほどで「経営規模等評価結果通知書・総合評定値通知書」が届きます。(審査機関により所要期間は異なります)。
総合評定値P点の有効期間は審査基準日(決算日)から1年7か月であり、この起点を誤解しないことが継続受注の要です。切れ目なく入札に参加するには、毎年決算後に経審を受ける運用が推奨されます。
よくある質問
Q. 経営事項審査を受けるには何が必要ですか?
A. まず建設業許可を取得していることが前提です。経審は許可を持つ業種についてのみ申請でき、決算変更届の提出や経営状況分析結果通知書の取得を経て、許可行政庁へ申請します。
Q. 総合評定値P点の有効期間はどれくらいですか?
A. 審査基準日である決算日から1年7か月です。起点は経審を受けた日ではなく決算日である点に注意が必要で、公共工事に継続参加するには毎年受審するのが一般的です。
Q. 経審の評点はどの項目から改善すべきですか?
A. 短期的には社会保険加入や認証取得で改善しやすいW点から着手し、中長期ではY点(財務)とZ点(技術力)を高めるのが効果的です。W点は比較的早く加点を得られます。
まとめ
経営事項審査とは、建設会社の経営規模や財務、技術力、社会性を客観的に数値化し、総合評定値P点として評価する制度です。このP点が自治体の入札ランクに直結するため、公共工事を目指す建設業者には不可欠な仕組みとなっています。
P点はX・Y・Z・Wの5つの評点で構成され、それぞれウエイトが定められています。評点改善は短期的にはW点から、中長期的にはY点とZ点を高める姿勢が有効であり、決算数値のコントロールは経営者自身が主体的に取り組むべき課題です。
初めて申請する際は、経営状況分析から経営事項審査、入札参加資格申請までを逆算してスケジュールを組みましょう。数年先を見据えたシミュレーションを行い、早めに動き出すことが着実な成長への近道です。
この記事のまとめ
- ✓経審は公共工事を直接請け負うための必須要件である
- ✓P点はX1・X2・Y・Z・Wの評点をウエイト合算して算出する
- ✓自社の主力工種で必要な等級基準とP点を事前に確認する
- ✓決算前から数値を管理し毎年計画的に経審を受審する
