「求人を出しても長く続かない」「特別ひどい職場ではないはずなのに、なぜか若手だけが辞めていく」——そんな悩みを口にする経営者は少なくありません。残業も少なく、ハラスメントの訴えもない。それでも離職率が高い会社は現実に存在します。
本記事では、厚生労働省や民間調査機関の公開データをもとに、いわゆるホワイト企業でも離職率が高い会社に共通する職場の特徴と、経営者が今日から見直せる具体策を整理します。
この記事でわかること
- ホワイトな職場でも一定数の離職は避けられない
- 大手新入社員の約36%が職場を「ゆるい」と感じており、それが早期離職の一因になっている
- 離職率が高い会社の多くは、若手への権限委譲と評価基準の言語化が不足している傾向にある
- 評価基準の明文化と1on1の実施は、体制が簡素な中小企業でも着手しやすい改善策
離職率が高いと言える会社はどれくらいあるのか?

自社の離職率が高いかどうかを判断するには、まず全国的な水準を把握しておくことが役立ちます。あわせて、労働条件を大きく改善したはずの企業でも離職が起きる「ホワイト離職」と呼ばれる現象についても押さえておきましょう。
令和6年の全国平均離職率は14.2%
厚生労働省の雇用動向調査によると、令和6年(2024年)1年間の常用労働者の離職率は14.2%で、入職率14.8%とあわせて0.6ポイントの入職超過となりました。前年と比べると離職率は1.2ポイント低下しており、全体としては人の出入りがやや落ち着いた1年だったといえます。業種別に見ると、宿泊業・飲食サービス業の離職率は25.1%に達する一方、製造業は9.6%にとどまるなど、業種間の差は大きくなっています。
自社の離職率を判断する際は、全国平均だけでなく同業種内での位置づけを確認することが欠かせません。特に離職率が高い会社を自認する場合、まずは自社の業種平均と比較したうえで、そこから何ポイント上回っているかを把握することが最初の一歩になります。
ブラックでない職場でも起こる「ホワイト離職」
近年、労働時間やハラスメント対策など労働条件を改善したはずの企業でも、若手社員が離職してしまう「ホワイト離職」と呼ばれる現象が注目されています。リクルートワークス研究所が大手企業(従業員1000人以上)の入社1〜3年目社員を対象に行った調査では、36.4%が現在の職場を「ゆるい」と回答しました。
同じ調査では、「すぐにでも退職したい」16.2%と「2・3年は働き続けたい」28.3%をあわせると44.5%が、今の会社との関係をごく短期的なものと捉えていることも明らかになっています。
この現象が示しているのは、働きやすさを整えただけでは離職を防ぎきれないという事実です。離職率が高い会社の背景には、労働条件の悪さだけでなく、成長機会の乏しさという別の要因が隠れているケースが少なくありません。次に、その背景を追っていきましょう。
新入社員はなぜ「ゆるい職場」で離職を意識するのか?

働きやすい職場であるにもかかわらず離職が進む背景には、労働環境の改善そのものが生んだ副作用があります。ここでは、その構造を2つの観点から整理します。
労働時間短縮で仕事の負荷そのものが下がった
働き方改革関連法やハラスメント防止措置の広がりにより、多くの職場で残業時間や業務量そのものが減少しました。これは従業員の心身の健康を守るうえで望ましい変化です。一方で、負荷が下がったことにより、若手が実務を通じて鍛えられる機会や、修羅場を経験する機会も同時に減っています。結果として、本人が「このままで実力がつくのだろうか」という漠然とした不安を抱えやすい状況が生まれています。
この変化は個々の上司の指導力の問題ではなく、法制度の改正という社会全体の構造変化によって生じたものです。経営者自身が「うちは楽をさせすぎているのではないか」と自分を責める必要はありません。むしろ、負荷が下がった分をどう補うかという設計の問題として捉えることが建設的です。
残業だけでなく、休日出勤や持ち帰り業務も減少傾向にあり、この流れは今後も続くと考えられます。だからこそ、負荷を下げた分だけ、育成の設計を意図的に組み込む視点が欠かせません。
心理的安全性はあっても成長実感を得にくい
先ほどのリクルートワークス研究所の調査では、職場を「ゆるい」と感じている新入社員のうち62.6%が「このまま今の会社の仕事をしていても成長できないと感じる」と回答しています。同じ調査では、職場を「ゆるい」と感じている新入社員ほど、自社への評価点自体は高い傾向も示されました。つまり、会社のことは嫌いではないものの、将来のキャリアへの不安から離職を検討する若手が一定数存在するということです。
心理的安全性、すなわち意見を言っても否定されない安心感は、若手が力を発揮するための土台として欠かせません。しかし安心感だけを整え、挑戦の機会や評価によるフィードバックが伴わない職場では、若手は「ここにいても自分は成長しない」という感覚を強めてしまいます。離職率が高い会社の多くは、この安心感と成長機会のバランスが崩れている可能性があります。
心理的安全性が高い職場ほど、若手からの率直な意見が集まりやすくなります。その意見を実際の業務改善やキャリア形成に反映させる仕組みまで用意できれば、安心感は成長実感へとつながっていきます。
離職率が高い会社に共通する課題・特徴とは?

ここまでのデータを踏まえると、離職率が高い会社にはいくつかの共通点が見えてきます。中小企業の現場でよく見られる4つの特徴を確認していきましょう。
若手に裁量のある仕事を任せていない
「若手に負担をかけたくない」という配慮から、定型的な作業ばかりを任せている職場は少なくありません。しかし裁量のない仕事が続くと、若手は「自分でなくてもできる仕事」だと感じ、やりがいを見失いやすくなります。リクルートマネジメントソリューションズの調査でも、入社3年目以下の社員が離職を想起した理由として「仕事にやりがい・意義を感じない」が最も多く挙げられています。
大切なのは、任せる仕事の範囲を段階的に広げながら、本人の成長に応じて裁量を増やしていく設計です。もちろん、経験の浅い若手にいきなり大きな責任を負わせることには慎重さも必要です。次の章で、その進め方を具体的に紹介します。
例えば、これまで既存フォーマットへの入力作業だけを任せていた新人に、次のステップとしてフォーマット自体の改善案を考えてもらうよう仕事の範囲を広げるだけでも、本人の当事者意識は大きく変わります。
評価基準があいまいで昇進の道筋が見えない
「何をどう頑張れば評価されるのか分からない」という状態は、若手にとって大きなストレス要因になります。中小企業では評価制度が明文化されておらず、上司の主観による評価に頼っているケースも珍しくありません。この状態が続くと、本人はどれだけ努力しても評価につながる実感を持てず、将来のキャリアが描けないまま離職を選んでしまいます。
評価基準そのものを精緻に作り込む必要はありません。まずは各役職・等級で「何ができれば次の段階に進めるのか」を簡潔な言葉で示すだけでも、若手の不安は大きく和らぎます。
例えば、同じ等級の社員でも、上司が変わった途端に評価が大きく変動するようであれば、それは評価基準があいまいであることの表れです。等級ごとに求める行動や成果を短い言葉で書き出し、社内で共有するだけでも、若手が抱く「頑張っても報われないのではないか」という不安は和らいでいきます。
上司との会話が業務連絡だけで終わっている
日々の会話が業務指示や進捗確認だけで終わっている職場では、若手が抱える小さな違和感や不安が表面化しないまま蓄積していきます。リクルートマネジメントソリューションズの調査では、新人・若手が悩みを話しやすいと感じる上司像として「仕事ができて的確なアドバイスがもらえそうな人」が最も多く選ばれており、単に優しいだけの上司が求められているわけではないことが分かります。
雑談の頻度を増やすだけでは不十分で、本人の仕事ぶりに対する具体的なフィードバックを、日常の会話の中に組み込むことが求められます。
具体的には、朝夕の挨拶に一言添えるだけでも構いません。「最近どう?」と聞かれた経験の少ない若手ほど上司との距離を感じやすく、小さな不満や違和感を一人で抱え込みやすくなる傾向があります。
報酬制度の説明が本人の納得感につながっていない
厚生労働省の調査では、転職者が前職を辞めた理由として、女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が12.8%、「職場の人間関係が好ましくなかった」が11.7%と上位に挙がっています。給与や労働条件そのものが著しく低いわけではなくても、その水準や決め方について十分な説明がなされていない場合、社員は「正当に評価されていない」と感じやすくなります。
報酬制度そのものを大きく変えることが難しくても、なぜその金額なのか、今後どうすれば上がるのかを丁寧に説明するだけで、納得感は大きく変わります。
例えば、昇給のタイミングで金額の通知だけを渡すと、社員は根拠のない評価だと感じてしまいがちです。反対に、たとえ昇給幅が小さくても、評価に至った理由を丁寧に伝えられれば、同じ金額でも受け止め方は大きく変わります。
離職率が高い会社が定着率を高めるためにできることは?

ここまで見てきた特徴を踏まえ、離職率が高い会社が現実的に着手できる3つの打ち手を紹介します。いずれも大きな制度改定を伴わず、明日から始められる取り組みです。
若手に任せる仕事の範囲を段階的に広げる
まずは、今任せている業務の中から「本人の判断に委ねられる部分」を1つ増やすところから始めます。例えば、資料作成であれば構成案から本人に考えてもらう、顧客対応であれば一部のやり取りを任せてみるといった小さな一歩で構いません。段階を踏んで裁量を広げることで、若手は自分の成長を実感しやすくなります。
裁量を広げる際は、任せきりにせず、任せた範囲の結果について必ずフィードバックを行うことが重要です。フィードバックのない権限委譲は、単なる放置と受け取られてしまう可能性があります。
任せる範囲を広げる際は、いきなり大きな仕事を渡すのではなく、失敗しても致命的にならない範囲から始めることが望ましいでしょう。小さな成功体験を積み重ねることで、本人も裁量を持つことへの不安が薄れていきます。
評価基準を言語化し定期的にフィードバックする
評価制度を一新するのではなく、まずは既存の評価項目について「何ができれば満たしたことになるのか」を1行でよいので言葉にすることから始めます。あわせて、年に1〜2回の評価面談だけでなく、月に1回程度の短い振り返りの場を設けることで、若手は自分の現在地を継続的に把握できるようになります。
評価基準を言語化する過程では、管理職どうしで評価の目線をすり合わせることも欠かせません。上司によって評価基準がぶれてしまうと、せっかく言語化した基準への信頼が損なわれてしまいます。
1on1で仕事の意味づけを行う
日々の業務連絡とは別に、1対1で対話する時間を定期的に確保します。ここでの目的は進捗確認ではなく、今任せている仕事が本人のキャリアや会社の目標にどうつながっているかを伝えることです。単調に見える作業であっても、その意味づけが伝わるだけで取り組み方は大きく変わります。
1on1を形骸化させないためには、上司側が一方的に話す時間にしないことが肝心です。本人の考えや悩みを尋ね、耳の痛い指摘であっても、なぜそれが大切なのかを丁寧に伝える姿勢が求められます。
よくある質問
- Q. 離職率が高いかどうかは何を基準に判断すればよいですか?
- A. 業種や企業規模によって水準が異なるため一概には言えませんが、まずは自社の年間離職者数を年始の在籍人数で割った数値を出し、本文で紹介した全国平均や自社の過去数年の推移と比較することをお勧めします。
- Q. ホワイト企業のはずなのに離職が続く場合、何から着手すべきですか?
- A. まずは在籍している社員に「仕事の負荷」と「成長実感」の両面でヒアリングを行い、働きやすさが不足しているのか、成長機会が不足しているのかを切り分けることが出発点になります。
- Q. 本文で紹介した施策は、中小企業でも実行できますか?
- A. 評価基準の言語化や1on1の実施は、体制や制度が簡素な中小企業でも比較的着手しやすい施策です。まずは管理職層から始め、少人数からの運用を試みることをお勧めします。
離職率が高い会社を変えるカギは経営者の視点転換にある

離職率が高いという会社の課題に向き合うとき、多くの経営者はまず労働条件の見直しに目を向けます。しかしここまで見てきたとおり、労働時間や待遇を整えるだけでは若手の離職は止まらないケースがあります。裁量、評価基準の明確さ、そして日々の対話。この3つが揃って初めて、若手は「ここで働き続けたい」という実感を持てるようになります。
人が1人辞めるたびに、求人広告費や採用にかかる時間、教育コストが発生します。離職率が高い会社ほど、この採用と育成のサイクルに追われて疲弊しがちです。
制度を一度に全て変える必要はありません。まずは1人の若手に任せる裁量権のある仕事を1つ増やす、評価基準を1行だけでも言語化する、1on1の時間を月に1回確保する。
こうした小さな一歩の積み重ねが、数年後の定着率に確実に表れてくるはずです。

