Microsoftのソフトウェア革命と事業転換の歴史

Microsoftは、創業以来、OSやアプリケーションソフトウェアの開発を通じて、パーソナルコンピュータ市場を牽引してきました。しかし、インターネットの普及やモバイル市場の拡大など、テクノロジーの変化に伴い、同社は新たな事業展開を迫られることになります。ウェブブラウザ開発によるネットビジネスへの参入、Azureクラウドプラットフォームの立ち上げ、Skype、LinkedInなどの大型買収を通じて、Microsoftは事業領域を大きく拡張してきました。現在は、クラウド、AI、サブスクリプションビジネスなどに注力し、ソフトウェア企業からテクノロジーカンパニーへと変貌を遂げつつあります。

Microsoftの創業と初期の事業展開

Bill GatesとPaul Allenによる創業

Microsoftは、1975年にBill GatesとPaul Allenによって創業されました。当時、GatesとAllenは若き天才プログラマーとして知られており、パーソナルコンピュータの可能性に着目していました。彼らは、MITSのAltair 8800マイクロコンピュータ向けのBASICインタプリタを開発し、これがMicrosoftの最初の製品となりました。

MS-DOSの開発とIBMとの提携

1980年代初頭、Microsoftは、IBM PCのオペレーティングシステムとしてMS-DOSを開発しました。MS-DOSは、当時のパーソナルコンピュータ市場を席巻し、Microsoftの成長を大きく後押しすることになります。IBMとの提携は、Microsoftにとって重要な転機となりました。

MS-DOSの特徴は以下の通りです。

• コマンドラインインターフェース
• シングルタスク
• メモリ管理の simpliciy
• ハードウェアへの高い適合性

アプリケーションソフトウェアの開発

Microsoftは、MS-DOSの成功を機に、アプリケーションソフトウェアの開発にも注力し始めました。1983年には、マルチツール統合ソフトウェア「Microsoft Office」の前身となる「Multi-Tool Word」をリリースしています。

年	製品
1983年	Multi-Tool Word
1985年	Microsoft Excel
1987年	Microsoft PowerPoint

こうしたアプリケーションソフトウェアは、その後のMicrosoftの主力製品となり、オフィス業務の効率化に大きく寄与しました。Microsoftは、OSとアプリケーションの両輪で、パーソナルコンピュータ市場を牽引する存在となっていったのです。

Windowsの誕生とOS市場の支配

Windows 1.0のリリースと初期のバージョン

1985年、MicrosoftはGUIベースのオペレーティングシステム「Windows 1.0」をリリースしました。当時のパーソナルコンピュータ市場では、MS-DOSが主流でしたが、Windowsの登場により、ユーザーフレンドリーなインターフェースが導入されました。初期のバージョンは、マルチタスクや オーバーラップするウィンドウなどの機能は限定的でしたが、徐々に改良が加えられていきました。

Windows 95の大ヒットとOS市場でのシェア拡大

1995年、MicrosoftはWindows 95をリリースし、大きな成功を収めました。Windows 95は、以下のような革新的な機能を備えていました。

• スタートメニューとタスクバーの導入
• プラグアンドプレイ機能
• 32ビットアーキテクチャへの移行
• マルチメディア機能の強化

Windows 95の発売は、Microsoftにとって大きな転機となりました。発売初日だけで100万本以上を販売し、その後もOS市場でのシェアを拡大していきました。

年	バージョン	主な特徴
1985年	Windows 1.0	GUIの導入
1987年	Windows 2.0	オーバーラップウィンドウ
1995年	Windows 95	スタートメニュー、プラグアンドプレイ

Officeスイートの発売とビジネス市場での成功

Microsoftは、OSの開発と並行して、アプリケーションソフトウェアの開発にも注力しました。中でも、「Microsoft Office」は大きな成功を収めました。Word、Excel、PowerPointなどの生産性向上ツールを統合したOfficeスイートは、ビジネス市場で圧倒的なシェアを獲得し、Microsoftの収益の柱となりました。

Windowsの普及とOfficeスイートの成功により、Microsoftはパーソナルコンピュータ市場において確固たる地位を築いたのです。その後も、WindowsとOfficeを中心に、Microsoftは長年にわたりソフトウェア市場を支配し続けることになります。

インターネット時代への対応とeコマース事業への進出

Internet Explorerの開発とブラウザ戦争

1990年代半ば、インターネットの普及に伴い、ウェブブラウザが重要なソフトウェアとなりつつありました。Microsoftは、この潮流に乗り遅れまいと、独自のウェブブラウザ「Internet Explorer」の開発に着手します。当時、ブラウザ市場では、Netscape社の「Netscape Navigator」が圧倒的なシェアを誇っていました。Microsoftは、Internet Explorerを自社のOSであるWindowsに標準搭載することで、Netscape Navigatorとの競争に打って出ました。

この競争は、「ブラウザ戦争」と呼ばれ、InternetExplorerとNetscape Navigatorが熾烈なシェア争いを繰り広げました。最終的には、MicrosoftのOSとの密接な連携を武器に、Internet Explorerが勝利を収めることとなります。

MSNの立ち上げとポータルサイト事業

Microsoftは、インターネット時代への対応として、ポータルサイト事業にも進出しました。1995年、同社は「The Microsoft Network（MSN）」を立ち上げ、ニュース、エンターテイメント、検索エンジンなどのサービスを提供し始めました。

MSNは、以下のような特徴を持つポータルサイトとして発展していきました。

• Hotmailなどのウェブメールサービス
• MSN Messengerなどのインスタントメッセージサービス
• BingなどのMicrosoft独自の検索エンジン

Expediaなどのeコマース事業への投資と展開

Microsoftは、eコマース分野への投資にも積極的に取り組みました。1996年、同社は旅行予約サイト「Expedia」を立ち上げ、オンライン旅行市場に参入します。当初はMSNの一部として運営されていましたが、後に独立した企業となりました。

さらに、Microsoftは他のeコマース企業への投資も行っています。

年	投資先	事業内容
1997年	HomeGrocer.com	オンラインスーパー
1999年	CarPoint	オンライン自動車販売
2007年	aQuantive	オンライン広告

これらの投資は、必ずしも全てが成功したわけではありませんが、Microsoftのeコマースおよびオンラインビジネスへの意欲を示すものでした。同社は、ソフトウェア企業からインターネット企業へと、徐々に事業の軸足を移していったのです。

モバイル市場とクラウド事業への注力

Windows Phoneの開発とモバイルOS市場への参入

2000年代後半、スマートフォンの普及に伴い、モバイルOS市場が急成長しました。Microsoftは、この新たな市場に参入すべく、独自のモバイルOS「Windows Phone」の開発に着手します。Windows Phoneは、タイル状のユーザーインターフェースや、Officeアプリとの連携などの特徴を持っていました。しかし、先行するiOSやAndroidとの競争は厳しく、Windows Phoneは市場でのシェア獲得に苦戦することとなりました。

Azure クラウドプラットフォームサービスの立ち上げ

一方、Microsoftは、クラウドコンピューティング市場にも注力し始めます。2010年、同社は「Microsoft Azure」という名のクラウドプラットフォームサービスを立ち上げました。Azureは、以下のような特徴を持つサービスとして成長を遂げました。

• 仮想マシン、ストレージ、データベースなどのインフラストラクチャサービス
• Webアプリケーション、モバイルアプリケーションなどのプラットフォームサービス
• 機械学習、IoT、ブロックチェーンなどの先進的なサービス

Azureは、Amazon Web Services（AWS）やGoogle Cloud Platformなどと競合しながらも、着実にシェアを拡大し、現在ではMicrosoftの主要な収益源の一つとなっています。

SkypeやLinkedInなど大型M&Aによる事業拡大

Microsoftは、M&Aによる事業拡大にも積極的に取り組んできました。2011年には、インターネット電話サービスの「Skype」を85億ドルで買収し、コミュニケーション分野への進出を図ります。さらに、2016年には、ビジネス特化型SNSの「LinkedIn」を262億ドルという巨額で買収しました。

年	買収先	金額
2011年	Skype	85億ドル
2014年	Mojang（Minecraftの開発元）	25億ドル
2016年	LinkedIn	262億ドル

これらの大型買収は、Microsoftの事業領域を大きく拡張するものでした。同社は、従来のソフトウェア事業に加え、コミュニケーション、エンターテイメント、ビジネスネットワーキングなど、多岐にわたる分野でプレゼンスを高めていったのです。

モバイル、クラウド、M&Aを軸とした事業展開は、Microsoftが「Windows」「Office」依存から脱却し、新たな収益源を確保するための重要な戦略でした。同社は、時代の変化に合わせて事業モデルを柔軟に転換し、テクノロジー企業として生き残りを賭けたのです。

Satya Nadella体制での変革と今後の展望

クラウドとAI分野への経営資源のシフト

2014年にCEOに就任したSatya Nadellaは、Microsoftの事業戦略に大きな変革をもたらしました。Nadellaは、クラウドコンピューティングと人工知能（AI）を同社の成長の柱に据え、これらの分野に経営資源を集中的に投入してきました。その結果、MicrosoftのクラウドプラットフォームであるAzureは、Amazon Web Services（AWS）に次ぐシェアを獲得し、収益を大きく伸ばしています。また、AIの研究開発にも積極的に取り組み、Cortanaなどの革新的な製品を生み出しています。

他社との協調路線への転換とオープン化の推進

Nadellaは、従来のMicrosoftとは異なり、他社との協調路線を積極的に推進しています。かつてのMicrosoftは、自社の技術や製品に固執し、他社との連携に消極的でしたが、Nadellaは「Microsoft Loves Linux」というスローガンを掲げ、オープンソースソフトウェアへの支援を強化しました。また、競合他社とのパートナーシップにも前向きで、例えば、当時のライバルであったSalesforceとの提携は、この方針の象徴と言えるでしょう。こうした協調路線は、MicrosoftのイメージをOpen Innovation重視の企業へと変えつつあります。

法人向けSaaSとサブスクリプション型ビジネスの強化

Nadellaは、法人向けソフトウェアのクラウド化（SaaS化）とサブスクリプション型ビジネスの強化にも注力しています。具体的には、Office 365やDynamics 365といった法人向けSaaSの提供に力を入れ、従来の買い切り型ライセンスから、サブスクリプション型の料金体系に移行しつつあります。この戦略は、顧客の利便性を高めるとともに、Microsoftにとっても安定的な収益源となっています。また、LinkedInの買収により、法人向けソリューションとビジネス特化型SNSとのシナジーも期待されています。

以上のように、Nadellaは就任以降、クラウド、AI、他社との協調、サブスクリプションビジネスといった分野に軸足を移し、Microsoftの事業構造の転換を図ってきました。今後は、こうした戦略をさらに加速させ、テクノロジー企業としてのプレゼンスを高めていくことが予想されます。同時に、「Democratizing AI」というビジョンを掲げ、AIの民主化にも取り組んでいくとのことです。Nadellaの下、Microsoftは「Intelligent Cloud」と「Intelligent Edge」の融合を目指し、新たな時代を切り拓こうとしているのです。

参考文献

1. 「日経ビジネス」2018年10月号、日経BP社
2. 「Satya Nadella: The C in CEO stands for culture」、Fast Company、2018年11月
3. 「Microsoft Annual Report 2018」、Microsoft Corporation
4. 「マイクロソフト、攻めの経営に変貌　クラウドとAIを軸に」、日本経済新聞、2018年8月

まとめ

Microsoftは、ビル・ゲイツとポール・アレンによって1975年に創業されました。当初はBASICインタプリタの開発から始まり、MS-DOSやWindowsなどのオペレーティングシステムで大成功を収めました。その後、Officeやインターネットエクスプローラーなどのソフトウェア事業で市場を独占的に支配しました。しかし、2000年代に入るとインターネットの普及によって事業環境が激変し、クラウドサービスや検索エンジン事業などへの転換を迫られました。現在は、Azure や Microsoft 365 などのサブスクリプション型サービスを中心とした事業展開を進めており、時代の変化に柔軟に適応しながら成長を続けています。

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